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曖昧なままに
第4章 飲み潰れた後
「……」

 愛美から受けた短いメールの文面を、俺は暫く眺める。

 あの夜のことを、俺はまだ消化しきれていない。次に会う機会があったとして、一体どんな顔を見せればいいのかわからなかった。

 それでも『連絡を待っている』との一言には、やはり胸を撫で下ろしてもいる。また愛美に会える。少なくとも、それを確認して……。

「もしかして――彼女?」

 奈央にそう問われ、

「いや、違うよ」

 俺はそう答えて、即座に携帯を上着のポケットに押し込む。

「そう……で、どうします?」

 先程の誘い――その返事を、改めて奈央は俺に求めた。

「今日は無理かな。たぶん、二次会で上司のお供をさせられそうだ」

「そっか、何か面白くないですねー」

 奈央は頬杖をつきつつ、不満そうな顔で宙を仰ぐ。

「まあ、会社の飲み会なんて、大体こんなものさ」

 何となく宥めようとしてそう言うと、奈央はパッと向き直り俺を見据えた。

「じゃあ、中崎さん」

「な、何?」

「今度は私のこと――誘ってくれます?」

 じっと真剣な眼差しを浴びせられると、俺はやや焦りを覚えながらこう答えた。

「うん。まあ……その内にね」

「約束――ですよ」

 奈央はニッと顔を綻ばせ、念を押すようにそう言った。

 何がそうさせたのか知らないが、彼女は俺に興味を抱いたらしい。まあそうは言っても、からかわれている様なものだろうが……。

 しかし西河奈央が「抜け出そう」と言った時、俺の中に迷いが生じたのは事実だ。否、もっと正直に言うなら、恐らく断るつもりはなかっただろう。酒に酔っていたこともあるが、それだけ彼女に妖艶な魅力を感じた。

 そこにストップをかけたのが、計らずも愛美からのメールである。

 話が一段落すると、俺はトイレへ。個室に入り携帯を取り出す。当然、愛美へメールを返信する為だ。

 打ち込んだのは、この様な内容――。

『ごめん、少し仕事が忙しかった。愛美さんは、年末も仕事?』

 なるべく当たり障りなく。そんな点に気を遣いつつ、この短いメールに俺はかなりの時間を費やしていた。

 だが対する愛美の反応は、殊の外素早い。俺が用を足している間も待たずに、再び俺の携帯が鳴り出す。


『明日、いつもの場所で待っています』

 俺の予定など一切構わずに、まるで命じるようなメールはそう告げていた。
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