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曖昧なままに
第4章 飲み潰れた後
次の日の夕刻。俺はいつもの場所で、一人立ち尽くしている。
もう明後日は大みそかだ。年末の駅前は、多くの人で溢れそこはかとなく騒がしい。そんな人の往来を眺めていると、程無く俺の待ち人もその姿を現した。
「す、すいません。道が混んでいて、遅れてしまいました」
駆けつけた愛美は、白い息を吐きつつ頭を下げる。
「慌てなくても、いいのに」
そんなお座なりな言葉をかけながら、俺は自然と彼女の様子に注目していた。
少しくたびれた感のある黒いダウンのコート。細目のジーンズにスニーカー。顔にはほんのりとした控え目のメーク。その姿はあの夜とは違う、いつもの愛美であった。
それを見た俺が、どう感じたのかは微妙である。ホッとしたようでもあり、ガッカリしているのかもしれない。しかし、それは単に外見上でのこと。そこから彼女の真意を探ることなど、できる訳もなかろう。
ともかく、少しだけ緊張を解していたことだけは事実か。
「今日は人が多いんですね」
「うん。どこも忘年会って感じなんだろうね。俺の会社も昨日だったし」
そう話すと、愛美はニコッと微笑みこんな提案をする。
「じゃあ、今夜は私たちも忘年会しましょうか」
その言葉を受けて、駅前の居酒屋に移動した俺たち――。
やや暗い照明の仕切られた席で、俺は愛美と向き合って座る。こうして面と向かうと、やはり蘇るのは気まずい想い。だが変に構えたのは、どうやら俺だけだったようだ。
「お酒、飲まないの?」
「今日は車で来てるので。付き合えなくてすいません」
自分で忘年会と言ったのに、とそんな風には思った。だが元々愛美は好んで酒を口にする方ではないので、それも仕方あるまい。問題なのはそんな彼女の態度が、俺への警戒であるように感じられたこと。
愛美は楽しげに、自分の好きなアニメの話などを俺に聞かせていた。その様子は、やはり通常の彼女の姿である。だからこそ一層、あの夜の彼女の異質さが際立つ。
そうして時間を過ごしている内に、俺はある結論を導く。つまり愛美はこの前のことを無かったことにしたいのだ、と。
それが『忘年会』という言葉に繋がるとすれば、俺にも忘れろということに他ならないが……。
そんなことを思慮する俺に――
「あれ、どうかしました?」
ただ何気に、愛美が訊ねていた。
もう明後日は大みそかだ。年末の駅前は、多くの人で溢れそこはかとなく騒がしい。そんな人の往来を眺めていると、程無く俺の待ち人もその姿を現した。
「す、すいません。道が混んでいて、遅れてしまいました」
駆けつけた愛美は、白い息を吐きつつ頭を下げる。
「慌てなくても、いいのに」
そんなお座なりな言葉をかけながら、俺は自然と彼女の様子に注目していた。
少しくたびれた感のある黒いダウンのコート。細目のジーンズにスニーカー。顔にはほんのりとした控え目のメーク。その姿はあの夜とは違う、いつもの愛美であった。
それを見た俺が、どう感じたのかは微妙である。ホッとしたようでもあり、ガッカリしているのかもしれない。しかし、それは単に外見上でのこと。そこから彼女の真意を探ることなど、できる訳もなかろう。
ともかく、少しだけ緊張を解していたことだけは事実か。
「今日は人が多いんですね」
「うん。どこも忘年会って感じなんだろうね。俺の会社も昨日だったし」
そう話すと、愛美はニコッと微笑みこんな提案をする。
「じゃあ、今夜は私たちも忘年会しましょうか」
その言葉を受けて、駅前の居酒屋に移動した俺たち――。
やや暗い照明の仕切られた席で、俺は愛美と向き合って座る。こうして面と向かうと、やはり蘇るのは気まずい想い。だが変に構えたのは、どうやら俺だけだったようだ。
「お酒、飲まないの?」
「今日は車で来てるので。付き合えなくてすいません」
自分で忘年会と言ったのに、とそんな風には思った。だが元々愛美は好んで酒を口にする方ではないので、それも仕方あるまい。問題なのはそんな彼女の態度が、俺への警戒であるように感じられたこと。
愛美は楽しげに、自分の好きなアニメの話などを俺に聞かせていた。その様子は、やはり通常の彼女の姿である。だからこそ一層、あの夜の彼女の異質さが際立つ。
そうして時間を過ごしている内に、俺はある結論を導く。つまり愛美はこの前のことを無かったことにしたいのだ、と。
それが『忘年会』という言葉に繋がるとすれば、俺にも忘れろということに他ならないが……。
そんなことを思慮する俺に――
「あれ、どうかしました?」
ただ何気に、愛美が訊ねていた。