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曖昧なままに
第1章 忘れえぬ彼女
 『普通の容姿であり、ちょっとポッチャリの女性』その程度ならば、十分に許容できると考えていたが……。

 しかし今、俺の目の前にいる女性は――体型に関して言及するなら、明らかに『太り気味』の域を超えている。それも遥かに……。

「……」

 俺は呆然としながら、その女性を黙って眺めていた。

 そりゃあ、そうだよ。現実なんて、こんなものだろう。俺はやや自嘲気味に笑う。そして一瞬だけ、迷いが生じていた。このまま会わずに、済まそうかと考えたりして……。

 しかし流石にそれは、相手に失礼であろう。せっかく来てくれているのだし、それに条件面なら俺の方だって大概なもの。

 そう思い直し、席を立ち上がった俺は――

「どうも――」

 と作り笑顔で、そう声をかけようとする。だが、その直後ことだった。

「あー、いたいた!」

 その太った女性は俺に見向きもせず、明後日の方向に手を振る。そしてそのまま小走りに、彼氏(?)らしき人物の元へ向かって行った。

「コホ……」

 俺は小さく咳払いをして、席に戻る。恐らく赤面していることだろう。彼女を『マミ』だと思ったのは、完全に俺の勘違いだった。

 とてもバツが悪い気分である。俺は周囲を見渡し、この憐れな挙動不審者が、誰の目にも触れていないかをそっと確認した。

 そして同時に、気がつく。既に約束の時間が、過ぎていることを――。

 どうも来ると思い込んでいたことが、そもそも甘かったようだ。俺と『マミ』を繋ぐものは、サイト上でのメールのやり取りのみ。そんな約束を信じて、どんな相手だろうと夢想する三十男。そんな自分が、酷く情けなく感じられた。

 そんな風に打ちのめされ、俺が俯いていた時である。


「あの――失礼ですが。『ヒロ』さん、でしょうか?」


 その声に反応し、俺は不意に顔を上げた。『ヒロ』とは、俺のサイトに於ける名。それを耳にして、俺の鼓動が再び高鳴る。

「え? はい……!」

 その時、一目で衝撃が走った。

 俺の傍らに立っていたのは、可憐な若い女性。その彼女がニコッと微笑み、俺を見つめている。俺にはその顔が、とても輝いているように感じられた。

「あの……もしかして……?」

「遅れてすみません。私――『マミ』です」

 彼女はそう言って、丁寧に頭を下げる。

 これが俺と彼女の、初めての出会いとなった――。
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