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曖昧なままに
第5章 尚、儘ならず
 年明けの最初の出勤日。

 正月休みの怠惰な生活が祟り、俺は時差ボケのような症状に苛まれていた。重い身体を引きずりつつ、何とか午前中を乗り切ると昼休みへ逃げ込む。

 そして工場の脇にある喫煙所で、一人煙草を吹かしホッと一息ついていた。

 すると其処へ、ツカツカと小気味良いヒールの音が、歩み寄って来る。

「中崎係長」

 あまり耳慣れないその声に、俺は振り向いた。

「あ、キミは――」

「フフ、何ですかその反応」

「いや……」

 些か唖然とした俺を、彼女は口元に手をやり軽く笑った。

 話かけてきたのは、会社の事務員の西河奈央。ひょんなことから忘年会の席で話すこととなったが、会社で顔を合わせるのはこれが初めてである。

 つい気の抜けたような対応となった原因は、彼女が着用している事務服のせいもあろう。

 一体、誰の趣味なんだ? 俺は思わず、そんな疑問を抱いていた。

 黒を基調とし落ち着いた雰囲気でありながら、キュッと腰のくびれを絞り込んだようなタイトな制服。それが彼女の意外なほどにたわわな胸を、これでもかと強調しているように見える。

 そして丈が短めのスカートから覗く、スラリとした脚とそれを覆う黒いストッキング。ともすれば下品な印象すら与えかねないそれらを、それでも奈央は毅然と着こなしていた。

 少し可笑しな言い方をすれば、程好い良い『ケバさ』を醸し出している。

 奈央はサラリとした長い茶色の髪をかき分け、俺の吐き出した煙を眺め話を続けた。

「いいですね。私も一服したいなあ」

「煙草、吸うの?」

「ええ、かなりのヘビースモーカーですよ」

「へえ、意外だな。よかったら吸う?」

 そう言って俺は、上着のポケットから煙草を差し出す。

 だが彼女は、軽く右手を振ると――

「そうしたいのは山々ですが、仕事中は我慢しておきます。私みたいな女が、昼間から煙草吹かしてたら、さぞイメージが悪いだろうし」

 確かにそうかもしれない。否――只でさえ喫煙者は、肩身の狭い世の中だ。俺の会社でも喫煙スペースは、この一か所だけ。それに彼女は、この会社に入社したばかり。

 そんな事情から、彼女が周囲の目を気にするのも理解はできた。 
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