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曖昧なままに
第5章 尚、儘ならず
「だから――身体の相性って、とても重要だと思うの」

 そう言葉を続けつつ、怪しい雰囲気を奈央は纏ってゆく。それに気圧されたように、俺は居心地の悪さを覚え、話の矛先を変えようと試みた。 

「キミは……再婚したいと思う?」

「当然、思いますよー。ずっと一人なんて無理だし――中崎さんは考えてないの、再婚?」

「何れは――とは思うけどね。呑気に構えていれば、あっと言う間にジジイの仲間入りだけど」

「フフフ――中崎さんって、何かネガティブですよねー」

「そういう性分だ。仕方ないよ」

「でも私――嫌いじゃないかな」

「からかうなよ」

「別に――そんなつもり、ありませんよ」

 奈央はそう言って、身体をピタッと寄せた。肘にたわわな弾力が触れ、更にグッと押しつけている。

 否応なく高まるのは、俺の鼓動。

「確かめてみます? ――身体の相性」

 耳元をくすぐるように、甘く囁かれた言葉。それを聞き、俺はゾクリとして慌てて身体を離す。

「キミ……酔ってるだろ?」

「ええ、酔ってますけど――何か問題でも?」

 濡れた唇の口角をくっと上げ、奈央は艶やかな表情のまま微笑を浮かべた。

 思わず避けた視線が、彼女の身体を捉える。華奢でありながら豊満な胸。それを激しく揉みしだいている、生々しい夢想が脳裏を襲った。

 俺はゴクリと、唾を呑む。

「どうします?」

 しかし、改めてそう問われた時――

「今日は……帰ろう」

「そっか……了解です」

 俺の返答に、奈央は少し残念そうにしていた。

 そのまま欲望を満たすのは、簡単であったかもしれない。少なくとも奈央は、興味以上の気持ちを抱いてくれているようだ。

 だがこのタイミングで、そこに至るのは間違いだろう。彼女とのことを本気で考えるつもりなら、尚更に。


 店を後にして、外を歩いていると――。

 奈央は急に、俺の腕を引き細い路地へ入る。そして壁を背にして立つと、暗がりで俺の顔を見上げた。

「どうかし――た!?」

 俺の首に絡みつく両腕。それに顔を引き寄せられ、不意に塞がれた唇。

 奈央の舌が差し込まれ、それが俺の口の中をかき回していた。

「中崎さん――気になってること、あるんでしょ?」

「え……」

「まあ今は、これで許してあげます」

 短くも激しいキスを終え、奈央が悪戯っぽい瞳で俺を見た。
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