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曖昧なままに
第5章 尚、儘ならず
 その二日後、俺は愛美と会う約束をした。

 西河奈央の甘美な誘いに応じなかったのは、彼女がいみじくも指摘した通りである。俺には気になっていることがあり、それは愛美との奇妙な関係に他ならない。

 奈央の件がなくとも、それは明確にすべきだと感じてはいた。だが今はよりその必要に迫られている。奈央の魅力がそうさせているのは、言うまでもあるまい。

 それを保険のように考えたわけではないが、やや卑怯であることは否めない気もする。だが少なくとも二人の女性の間で器用に立ち回るような真似は、俺には無理だった。

 つまり愛美と会う前の時点において、俺はその関係が終わりに向かう予感がしている。

 否、それを予感とするのは本来なら変だ。俺の意思が揺ぎ無いものなら、そんな言い方にはならない。だから、そういうことなのである。不可思議な面は承知しながらも、愛美への好意は変わってはいない。

 その点において、俺は大いに揺らいでいた。

 しかし彼女は、俺の求めるものを満たそうとはしないだろう。例えば恋人として俺と付き合う気があるのなら、恐らくはもうとっくにそれを感じさせている筈だ。

 愛美が俺に与えたのは、恥辱と快楽と――その後に訪れた虚しさである。


 夕方。いつもの待ち合わせ場所で顔を合わせ、俺たちは食事へと向かった。

 年末以来の愛美の様子は、やはり普通である。つまり前回と同様に、まるで何事もなくリセットを施した状態という雰囲気だ。

 俺は彼女を連れ、比較的落ち着いたレストランに入店。前回の反省を踏まえつつ、酒を控え主に彼女の話に耳を傾けていた。

 こうして二人で顔を突き合わせ、話をするのは何度目だろうか。彼女の話は大抵、三種類に分類できる。職場の人間関係の愚痴、アニメ等の趣味のこと、あとは自堕落な自分の自虐ネタ、とそんな感じだ。

 それなりに楽しくはあったが、やはりそれは上辺をなぞっているに過ぎない気がする。いくら繰り返そうとも、彼女の本質は見えなかった。

 それに比べれば話した時間は短くとも、奈央との会話の方がよっぽど印象的である。

「あのさ――ちょっと訊いてもいいかな」

 食事を終えるとコーヒーを一口飲み、俺はそう切り出す。

「何ですか? 随分と改まって」

 クスッと笑う愛美に、俺はこう訊ねた。

「キミは俺のこと――どう思ってるのかな?」
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