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曖昧なままに
第1章 忘れえぬ彼女
「遠藤愛美(えんどうまなみ)です」

 とりあえず入った近くのカフェで、彼女はそう本名を名乗った。

「あ、どうも。俺は中崎洋人っていいます」

 自己紹介を済ませると、互いに緊張を残しながら、ぎこちない会話を始める。それぞれが当たり障りのない質問をし合うと、まずは表層上の情報を互いに知ることとなった。

 彼女――愛美は今、アパートで一人暮らしをしているとのこと。どうやら専門学校を卒業後に、バイトを転々としているようであり。現在は近くのスーパーに於いて、レジ打ちのアルバイトをしている、とそんな話をしていた。

 些か緊張が解れた頃を見計らうと、俺はこんなことを言ってみる。

「太ってるって言うから、最初はピンとこなかったですよ。全然――というか、寧ろ痩せてる方ですよ」

「そんな……。これでも最近、三キロも増えちゃって」

 何処に、と思うほど俺の目には華奢に映っている。小柄であり特にスタイルが抜群とは言う訳でもなかろうが、普通に女性らしく十分に魅力的だ。服装やメイクは控えめで、確かにパッと見には目立つタイプとは言えまい。

 だがこうして面と向かって話していると、その印象はまた変わる。何より顔つきが可愛らしく、二十四歳という年齢以上に幼さを感じさせていた。

 彼女の容姿が好ましいのは嬉しい誤算だが、そうなると反対に自分の方の第一印象が気にかかる。年は十近くも上で中年に片足を突っ込みつつある、しかもバツイチの男。印象が悪いのは、ある程度はやむを得まい。

 しかし、彼女ははにかみながら、俺を見て言った。

「私……年上の方が、落ち着くみたいなんです」

 気遣いを差し引いても、その言葉は俺の心を小躍りさせるに十分なもの。

 そう聞けば、是非お付き合いを――と。早くも俺の中に、そんな欲求が生じ始めていた。それも一時の関係ではなく、できれば彼女としてである。

 そう感じた俺は、やや探るようにこう訊ねた。

「愛美さん。今、彼氏とかいないのかな?」

「あ、ええ。まあ――」

 と、何故か少し動揺して愛美は口籠る。俺が不思議そうな顔をすると、彼女は俯き加減にこう話した。

「――というか私……。まだ一回も、男性と交際した経験がないんです」

「え?」

「引きますよね。ホント、恥ずかしいな……」

 愛美は言葉通りに顔を赤面させると、モジモジと肩を窄めてそう話す。
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