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曖昧なままに
第6章 肝心なルール
「遠慮せず……私に……ください」

 愛美は一心に俺を見つめ。その艶やかな声を以て、俺にそう伝えた。

 今、彼女が俺に求めるのは、自らの手で果たすこと――すなわち自慰。

 俺の前に差し出した顔と身体は、俺の二度目の放出を受け止める為に……。


 そして、程無く――訪れた射精。

「――!」

「ああ……」

 可愛らしくも怪しげな顔。それに強烈な迸りを浴びて尚、愛美はその一部始終を見守っていた。

 最初に鼻先にとぷっとした放射。それが唇に滴る間にも、目元や胸へ向けられた追撃。その全てを受け止め、愛美は恍惚の表情を浮かべる。

「……」

 俺は快感を弾きながら、呆然とその様を眺めていた。

    ※    ※

 この夜は――まだ終わろうとしない。 

 灯りが消えた部屋。ベッドに横たわった俺。その足元の布団の不自然な盛り上がり。その中から聴こえる籠った音。それに耐え兼ね、俺はようやく口を開く。

「愛美……もう、いいから」

「どうぞ……ちゅぷ……寝ていてください」

 時刻は既に深夜に差掛り、だのに彼女は帰ろうとしなかった。

 愛美は隠微な音を唇で奏で、俺を呑み込み離そうとしない。

「もう、無理だよ……」

 絶倫には程遠く、至って普通であろう俺の精力。その経験則から判断して、少なくとも今夜は回復に至らないだろう。しかも二度の射精は、自分でも驚く程に多量。

 現に愛美の口の中でも、未だ反応は見られない。もう数十分それを続ける彼女に対し、申し訳なくも思った。

「大丈夫ですよ。私がしたいだけですから」

「何故……そこまで?」

「うーん……新しい趣味って、そんな感じなのかな?」

 あっけらかんと話す愛美。『趣味』という言葉が、俺に一抹の不安を残す。否、この関係の中に俺が真に求めるものは、最初から存在していない。それを承知した上で、俺は愛美の流儀に従った筈。

 ならばいっそ、割り切り愉しめばいい。

「……」

 だが恐らく俺には、それができない。何処までも己に都合良く愛美を扱えば、必ずそれ相応の軋みに苛まれるのだろう。例え彼女が、望んでいることだとしても……。


 そんな人間だから――愛美は俺を選んでいる?


 微睡の中、その根拠なき仮定を導き出した時――。

 うっ……。

 俺の『三度目』が、愛美の偽りの慈愛の中に溶けていった――。
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