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曖昧なままに
第7章 ディープな日
 まあ、どうなのだろう。結局は有耶無耶としまった気が、しない訳でもないが……。

 ともかく――この『義理チョコ』をきっかけとして、西河奈央に対して変に構える必要はなくなったようには思っている。

 彼女が言ったように急に距離を縮めたことで、俺の方も妙に意識過剰になっていたことは間違いない。これで一度リセットできるのなら、あくまで会社の同僚として別に肩肘張ることもない筈だ。

 ――という話で、いいんだよな?


「あ、そうだ。慰安旅行の出欠なんですが――」

 と、奈央は改めて当初の要件を、俺に訊ねる。

 慰安旅行とは当社にて年に一回行われている、恒例の会社行事。社員の日頃の労を労い親睦を深める。そんな月並みな目的で、企画されている訳だが。

「ああ……今年も、そんな時期か」

 俺は露骨に、顔をしかめた。

「随分と、嫌そうですけど?」

「まあね……。朝から飲みっぱなし。へべれけのオッサンたちに、絡まれ続けるバスツアー。一日バスに揺られてようやく着いたと思えば、ホテルにてまた宴会。一応は観光もするけど、酔っているから何処に行ったのかさえ概ね記憶には残らない……そんな意味なしの旅行だし」

「うわぁ……それマジですか? 私、遠慮したいなあ」

「冗談じゃなく。適当な口実作って、キャンセルした方がいいよ。特にキミの場合はね。男中心の職場の宿命――忘年会のことを鑑みれば、推して知るべしって訳」

 セクハラの嵐。下手すればコンパニオン扱い。俺はそんな意図を、暗に奈央に伝えた。

「そ、そうします……。じゃあ、中崎さんも?」

 そうしたいのは、山々だが……。

「俺……今年の幹事なんだよね」

「あ……それはご愁傷様です」


 旅行の件が、些か憂鬱なのは確かだ。しかし西河奈央と久しぶりに話せたことに関しては、やはり悪くない気分がしている。その心理を深く探ることは、敢えてしないでおこう。

 そんな俺の性格が、時に災いを導く結果になるのは一応承知している。それでもこの時の俺は、心の平穏を優先したかった。只でさえ愛美には、未だに動揺させられ続けている。

 それにしても、バレンタインデーなんて流石に念頭になかった。そんなイベントを意識させられたのは、独身だった二十代の頃以来のこと。

 そうなると今夜、愛美は来るのだろう。俺はその来訪を、何となく予感していた。
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