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曖昧なままに
第7章 ディープな日
 言われれば、その通りかもしれない。近所のスーパーにてワンコイン程度で買い求たであろう、他の二つに比べればそうだ。

 奈央がくれた物は一線を画すように、何処か洒落た印象で若干の高級感さえ漂う。しかしその些細な差異が、問題であるように思ってはいなかった。

 だからそれを愛美により、気づかされたこの時。俺の中に後ろめたさが生じたかと問われれば、やはりそれは否としたい。愛美との今の関係を未だ咀嚼しきれていない、俺の立場としての話しである。

 普通の男女間に照らし合わせれば、あまりにも異常なものである故。そのバイアスかかる以上は、シンプルな思考は却って難しくなる。

 しかしそれは感情の話を、理屈へと置き換えているに過ぎなかった。

「そう――だね。ちょっと美味そうだ。良かったら食べてもいいよ」

 俺が口走った言葉には、やはり誤魔化そうとする意図が透けていたのだろう。

「……」

 愛美は沈黙を以て、それを受け止めた。

 当然エスパーでもなければ、その些細な突端から西河奈央の存在に行き当たることなどない。それでも俺の態度を、彼女が気に入らなかったのは確かのようだった。

「実は……手作りのチョコを、用意していたのですが」

「へえ、手作り。それは嬉しいな」

「だけど……洋人さんに、ソレはあげません」

「……?」

 室内に不穏な緊張感が漂う。愛美は手にしていた小箱の包装紙を、ビリビリと無造作に破る。その中のチョコを一つ摘み出し、それを口に頬張った。

 そして突然――愛美の顔が俺の方へと迫る。

「ど、どうし……た!?」

 ギュッと抱きつかれた拍子、俺の身体が床へ倒れた。

 愛美は上へ覆い被さると、両手で俺の顔を掴んで強引に唇を重ねる。

「んっ……」

 愛美の口の温もりが、トロリと溶かしたチョコ。彼女は舌を介して、俺の口に甘美な味を広げた。

 くちゅり……れろぉ……ぴちゃ。

 そんな隠微で、下品な音が擦れる。

 二人の舌の蠢きが、固形を極限までドロドロへと化す。それが両者の唾液に混ざり、喉の奥にしっとりと流れ込んだ。

「コレが……私からのチョコです」

 奈央から渡されたソレを、自らの口で俺に与え満足そうな愛美。そのまま微笑み、俺の顔をじいっと見据えている。

 その瞳の奥に、俺が見つけたもの。それは愛美が示した、強烈なまでの独占欲だった。
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