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曖昧なままに
第8章 相和する時
 ほぼ宴席と化したバスに揺られ、社員一行が訪れたのは割と有名な温泉街。予約したホテルにチェックインを果たすと、時刻は既に夕刻を過ぎていた。

 大浴場で旅の疲れを癒す間も無く、引き続き大広間にて宴会を行う。それを何とか仕切り終え、俺は幹事としての役割からようやく解放されていた。

 それでも有り余る元気があるらしい。社員たちの多くは、夜の街へと繰り出して行ったようだ。この温泉街の一角には、言わば色街とされる風情もある。そんな遊びを密かな愉しみとして、参加している男連中も少なくはなかった。

 余計な気遣いで疲弊していた俺には、当然そんな真似は出来ない。ロビーで一服しつつ、温泉にでも浸かってさっさと寝てしまおうかと考えていた。

 そうして、部屋に戻る途中。エレベーターで階を上がると、そこで奈央の後ろ姿を見かける。奈央は角に隠れるようにして、通路の奥の方を窺っていた。

「ん、どうかした?」

 そう声をかけると、やや驚いたような反応。振り向き俺を見ると、ホッとしたようにこう話す。

「なんだ、中崎さんか。ちょっと今、部屋に戻れなくって……」

「何で?」

「どうも柏原課長が、私のこと探しに部屋に来てるみたい……。宴会の時から、しつこかったんですよ。この後、飲みに行かないかって……」

 それはどうにも、お盛んなことで……。俺は呆れるのを通り越して、寧ろ感心してしまいそうだった。

 柏原課長はアラフォーという年齢の割に、見た目が若く何処かチャラい雰囲気の人である。まあ平たく言えば、女好きの遊び人タイプだ。さぞかし自分に自信があってのことだろう。西河奈央のことを、本気で落とそうと考えているらしい。

 ちなみに課長は、既婚者なのだが……。

 俺はため息を吐くと、奈央にこう提案した。

「はあ……。じゃあ、暫くの間。俺の部屋にでも来るかい?」

「え、いいんですか」

「二十分もすれば、流石に諦めるだろ。それまでなら――」

 困ってる奈央を、ほってはおけずに――。

 俺が奈央を部屋に連れて行ったのは、あくまでそんな理由。この時は少なくとも、そんなつもりであった筈だ。
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