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曖昧なままに
第8章 相和する時
 団体客の多い温泉地の観光ホテルでは、部屋は和室の大部屋の場合が多い。俺の宿泊する部屋にしても男四人の相部屋であった。だが他の三人はやはり外出しているらしく、そこに姿はない。

 既に布団が敷き詰められた部屋の中に、互いに浴衣姿である俺と奈央が二人きり。故あって彼女を連れて来たとはいえ、流石に微妙なシチュエーションである。

 変に意識すると却って気まずいと考えた俺は、奈央にビールを勧めると適当な雑談を差し向けていた。

「やっぱり私がバツイチだから、簡単そうに思われちゃうのかなあ?」

 奈央は缶ビールを口にしながら、そんな不服を口にする。先程の柏原課長ほど極端ではないにせよ、彼女に色目を使う連中は殊の外多いようだ。

 だが別にバツイチであることは、あまり関係あるまい。こんな片田舎の零細企業にあって、彼女の存在が際立ってしまうのも無理はないこと。自らが漂わせるフェロモンに、どうも彼女は無自覚らしい。

「男がいます――とか言っちゃえば、少しは大人しくなると思うけど」

「だって……実際いないんだし。見栄を張ってるみたいで、何かカッコ悪いじゃないですかー」

 奈央は自分に自信を持っているタイプだと、俺は思い込んでいた。だからそんな弱気な態度は、少しだけ意外にも感じる。だがその点では、俺と似ているのかもしれない。自ら『バツイチ』と口にするのも、少なからずそこに傷を残している証拠か……。

「まあ、でも――ホントに作っちゃえば、問題ないんですけど」

 そう話した時だった。それまで布団の上に、無造作に脚を投げ出していた奈央。その片膝を立てて俺の方に向き直ると、俄かにその目つきを変える。

 はだける浴衣――細い脚の奥に黒色の下着を認め、思わず俺は顔を背けた。

「その……見えてるよ」

「ええ、ほんのサービスのつもり。何なら、こっちも――」

 奈央はそう言いつつ、右の襟を肩口まで開く。すると今度は、同じ色のブラ紐とふくよかな胸の谷間までが、惜しげもなく顕わになる。

「オイ……ふざけるなって」

「フフ、確かに少しからかってますけど。別にふざけてるつもりはないですよ。それに――私を部屋に連れ込んだのは、中崎さんでしょう?」

「人聞きが悪いな。それは、キミが困ってたからで――」

「ホントに、それだけ?」

 奈央はふぁさっと長い髪を払い、俺の顔をじっと見つめた。
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