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曖昧なままに
第9章 乗り移りし妹
 何となく勢いで返信してしまったが、その直後に俺は軽く後悔していた。愛美も何事かと、思っていることだろう。

 話したいことがあるのは相違ないが、その内容についてはまだ思慮していない。俺は自分の置かれた状況と意思を、確認する必要があった。

 奈央といい感じになったから、愛美との異常な関係を清算する――。

 少なくとも俺に、そんな明解な結論を即座に導くことは無理である。そうした性格だったら、少しは気楽な人生を歩んでいる筈だ。

 それにそのタイミングは、以前に一度逃していた。

 仮にも俺の孤独を癒してくれたのは、他ならぬ愛美である。その点に於いて感謝は尽きないし、そこはかとなく彼女に魅かれているのも事実。

 だが好意を察しながらも、俺は奈央を近づけてしまった。そして求めを拒めずに、彼女を抱いている。その中で奈央の新たな魅力をも、既に知ってしまった。

 現在の俺に、その二人を比べる資格などない。愛美のことを理由に、奈央を拒むことも可能だったのである。もし奈央を受け入れるのなら、やはりその前に愛美との関係に終止符を打つべきであった。

 結果として――愛美がくれなかったモノを、奈央に求めてしまい。そんな自分を最低と断ずることに、些かの迷いもなかった。

 しかし比較せずとも、確実にわかっていることもある。俺が自分らしく存在できるのは、隣に奈央が居る時なのだ、と。

 愛美との関係は、言わば宛てのない迷路。入口と知らず迷い込んだ迷宮に、当たり前の出口(ゴール)が用意されているとは、どうしても考えられなかった。

 どの道、都合良く二人との関係を並行するなど、例え僅かな期間であっても俺には不可能である。

 やっぱり、明日――再度、愛美と向き合って話し合わなくては。

 俺は改めて、そう決意した。恐らく奈央のことも、避けては通れまい。バレンタインの時を思い返せば、愛美の反応が正直気になる――というか、怖くすらあるが。それはこの際、仕方のないことだ。

 普通ならそれ以前に、軽蔑されてしまうと考える方が自然。だが相手があの愛美だけに、その先の展開は予想できない。

 ともあれ重要なのは、可能な限り愛美の本心に迫ること、であり。更に、その上で俺自身の気持ちを正しく認識すること、となろうか。

「……」

 様々なことを思慮する内に、俺は疲れに負けて微睡に墜ちていった。
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