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曖昧なままに
第9章 乗り移りし妹
 その問いに対して――愛美は些か照れながらも、その姿が何を模しているのかを語り始めた。

「一応、私が好きなアニメのコスプレなのですが……。愛菜(アイナ)っていう、いわゆる妹キャラでして。……とは言っても、この制服は高校時代の自前の物ですし。何よりも年齢が十六歳の設定なので、甚だ無理があることは承知しています。あの……どう、でしょうか?」

 どうって聞かれても……そのアイナ(?)を知らない俺には、さっぱりである。いや……童顔の愛美には、怖いくらいハマって見えなくもないが……。俺が訊ねているのは、そういうことではない。

「に、似合ってる……と思うけどさ。何故、それ? 今から掃除をするって言ってたよね」

「何と言うか……そろそろ新しい趣向が、必要な頃かと思いまして。だから、今日は一日中この姿で、洋人さんのお世話をさせていただきます」

「……」

 それはつまり、その恰好もある種のプレーの一環だと、そう言っているのか。俺は否応なく、如何わしい風俗店のそれを連想した。

「いや、ちょっと待って……その前に」

 妙な世界に引き込まれることに抵抗感を覚え、俺はいっそ話の本題を切り出そうと試みるが。

「そうですね。その前に――私自身がキャラに入り切らなければ、何ら意味はありません」

 愛美はあらぬ方向に、どんどん話を拗らせてゆく。

「そうじゃなくてさ……その、話たいことが――」

 無理に流れを引き戻そうとするが、愛美は右手を出して俺の言葉を制する。

「一分ほど時間をください。その間に……愛菜をこの身に……宿しますから」

 愛美はそう言って、そっと目を瞑った――。そして何事かをイメージするようにして、口元は自己暗示さながらに何かを一心に呟いていた。

「……」

 呆気に取られ、止む無くその姿を見守っていた俺。しかしそれにも耐え兼ね、愛美の肩にチョンと指を触れる。

「あの……愛美……?」

 すると――その瞳をキッと開き、通常とは明らかに異なる表情で、彼女は俺を見据えた。

「愛美って誰? 私――愛菜だけど」

「あ、そう……なの」

 気の抜けた俺の返事に、愛美(?)はプンと怒ってこう言い放つ。

「妹の名前を間違えるなんて。最低だね――お兄ちゃん!」

 お、お兄ちゃん……? 

 アイナに成り切った愛美は――俺に『兄』の役割を求めている――ようだった。
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