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曖昧なままに
第9章 乗り移りし妹
「お兄ちゃん、そこどいて! まったく、邪魔なんだから」

「うん……ゴメンな」

 掃除に洗濯に、忙しく動き回っている愛美――基、アイナ(そう呼ばないと、イチイチ怒る)。

 それをボーっと眺めながら、俺は自分の存在とは何んだろうかと、やや哲学的なことを考えてみる。そして徐々に襲う、激しい頭痛。

「お兄ちゃーん! お布団を干すから、持ってきてよ!」

 洗濯物をベランダに干しながら、そう叫ぶアイナ。

 お願いだから、そんな大きな声で呼ばないでくれ。他のアパートの住人が不在でありますようにと、俺は強く願う。

 何度、連呼されようとも『お兄ちゃん』は耳慣れず、その度に全身がゾワッとしている。

「ああっ! お兄ちゃん」

「ああ、はいはい」

 今度は何事だと思いつつ、テレビのラックを片づけるアイナに近寄ると――

「何、コレ?」

 そう言って目の前に突き出されたのは、アダルトDⅤDだった。

「何って……見たままだけど」

 パッケージに映るのは、裸のセクシー女優。そりゃそんな物も、一つや二つ出てくるだろう。こっちは離婚して以来は、侘しい一人暮らしなのだ。別に構わないだろうし、言い訳するのも変である。

 だがアイナの方は、それが甚く気に入らなかったらしい。

「イヤらしい。お兄ちゃん、最低!」

「ごめんなさい」

 怒られたので一応、謝ると――

「裸に興味あるなら……私が……」

 何故か急に、モジモジと身体を捩るアイナ。

「ん?」

 言葉が良く聞き取れず、訊き返すと――

「もう! 何でもないっ!」

 アイナは顔を赤らめて、また怒り出していた。

 俺はどう対応していいやら、まるでわからず困惑するばかり。ちなみにDⅤDは、そのまま実際に没収されてしまった。

 結局、この珍妙な兄妹のシチュエーション・コント(?)は、日が暮れても続く。世話焼きで怒りっぽくて、少しドジで(基本的には)兄想いの妹。俺は計らずも自然と、アイナのキャラを理解していた。それに慣れてゆく自分が、そこはかとなく恐ろしくはあったが……。

 そうして、アイナの作った料理で夕飯を済ませ、食後に一息ついていた時だ。

「ねえ、お兄ちゃん」

「何?」

「愛菜に――話があるんだよね?」

「!」

 急に真剣な眼差しを向けられ、俺の顔に焦りが滲む――。
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