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曖昧なままに
第9章 乗り移りし妹
 俺を哀しげに見つめたまま、アイナは音もなく泣いている。

 その涙がアイナを演じた上でのものなのか、その奥の愛美としての感情の表れなのか、凡庸な俺に理解はできなかった。只、自分を浅はかさを強く嫌悪。

 これでは最初から、愛美の真意に近づけるはずもあるまい。

 否、もしかしたら――それが愛美の狙いだったのか。そうやって彼女は俺を煙に巻き、その心を決して見せないようにして……。

 例えそうであっても、俺が迂闊であったことに相違ない。

 一体、何がしたかったのだろう。正直に話すことで、せめて誠実さを示そうなんて無意味。始めから俺の中に、そんなものは在りはしない。そうして自分自身に言い訳して、罪悪感を誤魔化したかったに過ぎないのだ。

 そう――アイナの涙が炙り出したのは、俺の罪悪感。

 奈央と関係を結んだことではなく、それを盾に自分の本心を偽ろうとしたことに対する、それこそが罪悪感の正体なのだ。

「お兄ちゃん……ヒドイよ……愛菜、あんなに頑張ったのに」

 尚もアイナであり続けながら、彼女はすすり泣いいている。

 俺は胸が締め付けられる気がして、心より詫びた。

「すまない……」

「その女がいたら……もう愛菜は……いらない?」

「そんなことないから――」

 俺は最初から、その本心では――

「馬鹿なお兄ちゃんを、許してくれ」

 彼女を失う覚悟はなかった。

「うん……許す」

 涙を拭い、見せた笑顔。それを見た瞬間、俺は堪らずにアイナの身体を抱き締める。その時には俺は既に、アイナにより創造されし世界にどっぷりと入り込んでいた。

 そして、仮初めの兄妹の心情を残したまま、禁断の境界を超越してゆく。

「お兄ちゃん……」

 顔を見上げそっと瞳を閉じる、アイナ。俺は自然な流れで、そこに顔を寄せる。

「ん……」

 軽く唇が触れた時、ぴくっとその肩を震わせる。

 愛美とは何度も繰り返している、互いの深くまでを味わうキス。だがアイナとのそれは、まるで別物だった。初めてのような固さを携え、ただ触れ合っているだけの唇。

 そこに生じる新たなる感激。それは同時に、俺に戸惑いを与えていた。彼女があくまでアイナとして、それまでの二人を踏まえないのなら。その先どう進めばいいものか、俺は判断しかねていた。

 しかし――

「お兄ちゃん――いいよ」
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