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第14章 二年
気持ちが冷めてしまっているわけでもない
夫に我慢できないほどの不満があるわけでもない
それなのに他の誰かに心奪われることなんて
信じられないと
この先誰かを好きになることはないだろうと
そう思っていた
時々自分がしていることの重さに
押し潰されそうになる時がある
彼にも言えない…
「絶対に一人で自分を責めるなよ…」
と
先に言われていた
だから余計に言えなかった
それを口に出さなければならないほどの
想いになるときには
私が彼から身を引かなければならない時だろうと
分かっていた
彼を想い切なく枕を濡らすような
そんな甘く切ないものだったとしたら
もっと違っただろうか…
あまりにもお互いの心の距離の近さと
過ごす時間が長いせいか
目を閉じれば
すぐ隣で彼が微笑んでくれているようで
心が穏やかになる…
翌朝病院へ向かう朝
夫に
「今日は戻ってこれないかもしれないから…」
と伝え重い足どりと
どんよりとした気持ちで病院へ向かった
朝早くに
「今日はお休みさせてください」
と理由を添えメールを彼にした
着信がすぐにあったけど
夫がまだ家に居たので出られなかった
イヤホンマイクをセットし
彼に電話をする
いつもの優しい声が耳の中から
喉を通って胸が温かくなる
「大丈夫か?お前夕べあんまり寝れてないだろ?
運転気をつけて!
あと…少しでも顔見たいから
時間が空くようだったら連絡して
無理して時間作らなくていいから!」
優しく
そして少し照れてぶっきらぼうな話し方に
自然に笑みがこぼれてしまう
病院に着くまでたわいのない話をして
たくさん笑った
いつも病院へ向かう時の
どんよりとした気持ちはなかった
病院に着くとICUに向かう
母が眠っている父の側に座っていた
「今回はひどくてね…
息ができなかったみたいで痙攣までして
本当にもうだめかと思ったのよ…」
と母が涙ぐむ
私は
「そう…それは大変だったね…」
とだけ言った
また入院費に実家との往復か…
と心の中ではため息をついてしまっていた
個室に呼ばれ説明を受ける
心不全
心筋梗塞
肺炎
発作が起きる前に病院の診察の予約があったのに
父は来なかったと聞いた
大量の薬を診察の時に処方され
命を保っているのに薬をおそらく一ヶ月近くは
飲んでいなかったのだろうと
説明された