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第15章 暗闇と光
前向きに過ごそうと
そう思えば思うほど
考えることから逃げてしまいがちになる
母は
「お父さんにはね…
美砂の言うことを聞いてあの家を手放して
出て行きたいから
って言ったの
でも俺も言うことを聞くから連れてってくれって…」
そう言った母はきっと
一人になってしまうことに
父を見捨てる形になることに
悩んでいたのだろう
母は強くて弱い人間だと
分かっていたし
あんなに酷い父に対してでも情はあるのだろう
私から強制的に離婚させることはできない
させてしまえばまた
私は自分を責める時が来るだろう…
病院に行き父に私は最後の決断を委ねる
「私はこれ以上お父さんのためにお金は出せないし
出したくない…
家の解体をして土地を売って
お父さんの未払いのものは全て清算するから
その後は好きにしたらいい…
私は今その後にお母さんが住むアパートを
私の家の側に探しているから…
お父さんはどうするの?」
と言った私に父は観念したように
肩を落とし
「俺も連れてってくれ…」
と言った
私は予想外の展開にジレンマを感じていた
でも目の前の父を見ていると
仕方ないと思えた
「そう言ってるなら大丈夫だろ
俺の親父もさすがにあれからは
母親にお金のことは全て任せて
おとなしく闘病してるしな」
彼の言葉になんだか安心していた
家もそうなってくれたら
全てうまくいく
母も苦労しなくて済むだろう…
あの家がある限り負債はかさむ
彼と相談し兄に連絡をして
解体費用の援助と先々の予定を説明し
一ヶ月後には解体工事が始まることに決まった
彼は幼なじみの不動産屋に話をしてくれ
おおよそいくらで買い手がつくのか
土地の価値や相場を教えてもらった
昔は一等地と呼んでもよいほどの
好条件だったものが
震災の後から海の近くということで
かなり金額が下がってしまったと聞く
そして何より周囲に何十年も昔から
その場所に住んでいる人が多い土地の
中央の土地はなかなか買い手がつかないと
言われた
彼は最低いくら位でならば
早急に売り手がつく可能性があるのか
知り合いを幾つもあたって話をしてくれた
父の退院の予定はまだつかないままだった