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第15章 暗闇と光

父に代わって市役所や法務局へと出向いた

市役所では
切り替えの保険証が届かないと
不安がっている母を連れ窓口に話をすると
分納で納めていたものが滞り
連絡もないため保険証を渡すことができないと
説明された
数年前にも滞納し
電話の権利と少額の口座預金を
差し押さえられていたことも知る

父はいわゆる悪質滞納者だった
全ての未納分を納めない限り
保険証は渡すことができないと説明され
未納分の固定資産税と
税金と
合わせて百万円以上のお金を納めた

夫の件で貯蓄を一度失った時から
コツコツと蓄えてきたお金が
入院費や未納の支払い
そして大金がこうして一瞬にして消えて行く

私は怒りと悲しみと
絶望にのみ込まれてしまいそうだった

助手席で涙を流し
「ごめんね…美砂…
本当に情けない…私お父さんと別れてもいいよ…」
と力なく言う母に

「お母さんのせいじゃないんだから謝らないで…
お父さんは見捨てないでくれと
観念したんだしこの状態のあの人を捨てることは
できないよ…ね…」

言いながら納得のできていない自分自身に
モヤモヤと黒い渦が頭と心を支配する

病院の駐車場で母に

「今日は顔見たくないからごめん…」
そう伝え車に残った

シートに重く気だるい身体を押し当て
大きなため息をついてしまう

息苦しい気がして窓を慌てて開ける

いやだ…
あんなお父さんのせいで苦しくなんてなりたくない…

私は午後に約束をしていた彼にメールをした

「少し遅れてしまうかも…
行くことができないかも…ごめんなさい」

他に言葉が浮かばなかった

すぐに着信があった

通話ボタンを押し
そっと耳に電話を当てる

「今日は市役所だろ?
なんかトラブル?大丈夫か?」
彼の優しいいつもの声に涙をこらえて

「大丈夫だよ!なんかバタバタしてて…
ちょっと今日はって…」
言葉が詰まってしまう

「お前さ…
その大丈夫は全然大丈夫じゃないときのやつだぞ
自分自身と俺にまで嘘つくのか?」
少し低く怒ったような声の彼に
私は涙が止まらなくなってしまう

「今どこ?言いたくなければ言わなくていい
来て欲しいなら場所だけ言って」
私はしばらく目を閉じ考えた

会いたいのか
今は会いたくないのか…

そして
「お父さんの…病院…」
と伝えると電話を切った

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