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第15章 暗闇と光

それからベッドに横になったまま
彼が話をしてくれた

鬱が酷かったであろうお母さんは
家の中でトイレの水を流すことさえうるさいと
テレビがうるさいと
音に対してとても神経質な人だったと

「あ…それでか…」
彼があまり物音をたてないよう
いつも気を使っていること
たまにつけるテレビの音量が
過剰なまでに小さいこと

全てに納得ができた

「え…そうだったんだ…
俺自分で気付いてなかったよ」
彼は少し驚いていた

今お母さんは寝たきりのお父さんと
昔よりいきいきとして元気に暮らしていると
そう言っていた

それから過去の彼の話…
奥さんとのことや
彼が考えている仕事のこと
彼の生活

私が聞かずにいたこと
聞けずにいたことの
全て話をしてくれた

そこに偽りも
少しの誤魔化しもないことを
今までの彼の姿から感じることができる


「大丈夫だよ…
どんな涼でも大丈夫
私は…私から離れることはないから」

ただ彼に安心して欲しくて
言葉が自然に溢れだす

「私ね…
こんなに温かくて優しい気持ちになったの
たぶんはじめてだよ…」

そう彼に伝えた

いつかは…
きっと別々に
歩いて行かなければならないかもしれない
それがどうしようもなく
変えることのできない現実だとしても

いつか心変りがあったとしても

私は彼の無邪気な笑顔が少しでも
多い日が続きますようにと
心から願うことだろう

きっとこれは恋ではなく
愛情というものなのかもしれないと

そう思った



その夜なぜか謙さんの夢を見た
目が覚めると涙が溢れていた

謙さん…
謙さんはきっと私のことを
愛してくれていたね…


今自分自身が知る色んな感情を
いつも謙さんはそのままに注いでくれていた

あれから数年後
謙さんが離婚をしたと夫から聞いた

「連絡…しないでくれよ…」
と言った夫は
きっと不安だったんだろう

私は連絡をするつもりもないからと
説明したけど
あれから何かあるたび
謙さんを思い出してしまっていた

なぜ…

それはきっと後悔ではなく
いつでも揺るがない愛情を注いでくれていた
謙さんの本物の優しさを
心が覚えているからなのではないかと
思った

そして彼に
私は揺るがない愛情を注ぐことができたらと
考えていた
























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