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第15章 暗闇と光
検査の結果は初期のアルツハイマー型認知症
とのことだった
母と顔を見合わせ愕然とした
他人事のような顔をして
すぐ側に座る父を見つめていた
帰りの車で
「お腹が空いた」
と父は昼食を要求し続ける
アパートに戻り昼食を済ませると
寝室によろよろと向かい父は昼寝をした
「何十年も家に寄り付かなかったと思ったら
今度はこれか…」
母がうなだれた肩を落とす
「今は初期だからまだ全然マシだよ
少しずつ間違いなく進行するから
今からそんなじゃもたないよ」
母にそう言いながら
自分自身にも言い聞かせていた
介護職に就いていたときに
色んなその病気の進行の行く先を
見てきた私は
今後父がどうなっていくのかも
想像ができていた
まだ話はできる
まだ理解ができている
お金のことを先に清算し
本格的な介護に備えなければと
考えていた
幸い彼の知り合いづてに
実家の土地の買い手が見つかった
とにかく現金をつくり
父の負債を清算することが先決だと
言い聞かせ破格の値段で交渉した
彼は全ての負債の清算を先にと
お金の立て替えをするからと
私に言った
私はあまりにも彼に申し訳なく
断っていた
彼は
「正直言って美砂の親のためじゃない
美砂の心の負担が少しでも軽減するだろうから
土地のお金が入ったら返してくれたら良いから」
と何度も私に言っていた
その間にも入院費や
未納の督促状が届き
私は彼の言うとおりにしようと決意した
父には
「払っていないお金を土地を売ったお金で
全て清算するから
振り込みされる予定の銀行の通帳と
印鑑を私に預けてほしい」
と頼んだ
父は
「あんなに良い家だったのにもったいない…」
「買ったときはあんなに高かったのに…」
と愚痴をこぼしていた
でも母の両親が生きていた頃
その土地と家のローンさえも滞らせ
差し押さえ寸前で母の両親に泣きつき
二百万ものお金を借り
返していなかったことを知っている
父の無責任さと
お金に対するだらしのなさに
病気とはいえもう同情のかけらさえない
最低限の人として
娘として
自分が後悔することのないように
しなければならないことだけしようと
そう決めた