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35
第16章 35

もうすぐ私は35歳になろうとしていた

父の負債は全て清算し
彼に立て替えてもらっていたぶんを
返すとき

「半分でいいから
半分はお前に」
と言われ拒否した

彼は
「この先俺にも美沙にも必ず何もないとは言えない
何かの時に必ず役にたつときがあるから…」
そう言った

私がそれでも嫌がると
「俺が突然死んだとき
俺達がもしも別れたとき…あとさ…
ずっと考えてたんだけどな…
これは俺の我儘になるんだけど…
この先数年もしないうちに必ずもう少し
会社の規模が広がるから
いや、広げるから…
もうひとつの家が欲しいんだ
マンションか家を買って…
その時そのあとにお互いの夫婦生活が
どうなっていたとしても
俺は温かい家庭がどうしても欲しいんだ…」

彼は今まで見たことのない真剣な顔をしていた

「今まではもうこのくらいでいいかって
正直妥協もしてた
でも美沙と居ることが活力になって
もっともっとって思えたんだ
それはなんでって
俺が……
俺は結婚生活に温かさも幸せも感じられない
それでいいって諦めてたけど
俺が幸せを感じたくて
温かさを求めてるからなんだって気付いたんだ」

彼もまた変化していた

捉え方や考え方が
人間味に溢れ
ポーカーフェイスだった彼は
ころころと表情を変え
無邪気に笑う

「でも…だからってこんな大金は…」
戸惑う私に

「それは俺がアイツと
別れることになったとしても
会社に何かあったとしても自分だけは
守れるようにってとってあるんだ
会社の金じゃないから安心しろ
俺はお前に預かっていて欲しいんだ
俺の一番大事だと思っていた金が
そうじゃなくなった証だよ
美沙が一番だ…」

彼が私を真っ直ぐ見つめる

「俺この間さ
お偉いさんと話しててさ
男の幸せは一生続けたいと
心底思える仕事に出会うことと
一生手放したくないと思える女に出逢うことだ
って言われてさ…
美沙のことがすぐ浮かんでさ
まぁこんな関係だからって
言われたら身も蓋もないけど…
俺は美沙を一生手放したくないって思ってるんだ
生まれてはじめてそう思える女を見つけたんだ」

彼は私から視線を外さない









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