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35
第16章 35
「それは…ちょっと心ないというか…」
私が言葉に詰まると
「な…
俺はそんなもんだと思ってたんだ
でも美沙は違ってさ
俺そのときにさ
俺も美沙になにかのときは迷わず
なんでもしてあげたいってさ…
今さら人間勉強してるみたいだよ」
彼がそっと優しく唇にキスをした
「だから美沙が吐いても汚いとも嫌だとも
なんとも思わないんだ
お前が親父をどんなに憎んでたとしても
それは間違いじゃないと思うし
それも含めて美沙だから
大丈夫なんだ」
そう言って笑った
それからこれからのことを考えた
まず
母に離婚するつもりがあるのか
ないのか確かめてから
そうだった場合は
そうではなかった場合は…
二人で何時間も話をした
「美沙…
俺はな…
本当は旦那と別れた方が
美沙は幸せなんじゃないかって
俺だけのものにしたいってずるい気持ちも
正直あるけど
そこまでどこか怯えて強がって
本音を言えず話もできない相手なら
旦那がいる意味はあるのかなってさ…」
私もそう思っていた
もしも涼に出逢うことがなかったら
もしもあのとき…
ふとそんなことを考えた先には
夫とはもう一緒にはいない私へと
たどり着いてしまう
好きと嫌いだけに分けなければならないとしたなら
嫌いではない
と答えてしまう
それなら好きか
と聞かれたら
答えられないと思った
夫にしてみればお酒を飲み
醜態を晒し
もう何年も過ぎ過去の過ち程度でしか
ないであろうことを
私はそれを言い訳に
壁をつくり
意地を張り
向き合うことを恐れ
やがて夫は私に何も言えない人になってしまった
なぜそれでも一緒にいるのか…
夫婦だから?
家族だから?
夫が別れたいと言わないから?
頭の中をぐるぐると
いろんな想いが駆け巡る
「まぁとにかくさ…
生きるか死ぬかの問題ではないし
今の美沙はまだ全てに立ち向かうのは
正直難しいと思うんだ…
どうなるとしても俺はついてるし
とりあえずは実家の生活のことからな…」
宥めるように
私の肩をそっと叩き
彼が私を覗きこむ
そうなんだ…
このまま泣いていても
何も解決しないし
はじまらない
私はどこかほっとしたような気持ちになって
そのまま眠ってしまった