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第16章 35

「美沙…」
目覚めた彼が寝ぼけ眼で私を呼ぶ

私は彼にぴったりと身体を寄せ
鼻先にキスをした

どちらかしか…

そう言われたら私は間違いなく
涼だと思ってしまう

でも理屈や想いだけでは
どうにもならないこともある

夕方いつものように笑顔で手を振り
彼を見送った

自宅に戻り夕飯の支度をして
夫の帰りを待ちながら
考えていた

涼がなぜ家を出ないのか
なぜそこまで破綻していると
お互いが分かっていても
夫婦を続けているのか

篠原さんに聞いていた

今までの…
そして今の彼の家庭の状況も
想像を絶するものだった

「だからねぇ…
ってわけじゃないけど
あれのその…
病気が治るか…
別に好きな相手でも
できない限りは多分アイツは逃れられないんだ…
アイツのせいでもなんでもないんだけどな…
あれはもう完全に親にも見離されてしまったしな…
責任責任って自分で自分に言い聞かせて
ずっとやってきたんだよ…
間違いなくアイツは美沙ちゃんがいなければ
もうとっくに正気を
保っていられない状態だったんだ…」

彼の明るさの中にある闇の理由が
はっきりと見えた瞬間だった

だからといって
どんな理由があったとしても
許されることではないと
頭では分かっている

私の人生…

この先…

夫と食事をしながら
話をした

「あのね…
やっぱり私…別れたほうがいいと
思ってる…ごめんなさい…」

夫は
「そうか…わかったよ
ありがとう…ごめんな…」
そう言った




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