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第16章 35

自分だけは
崩れてしまいたくないと
正気を保っていられていると
そう思っていた

食事が進まなくなり
やがて眠りについてはすぐに目覚め
朝方までそれを繰り返すようになり

仕事をして
彼と空いた時間に仮眠をして
やり過ごしていた

ある日些細なことで保っていた糸が
ぷつりと切れる

彼のふとした普段なら気にならないような
言葉に
なぜか涙が止まらなかった

彼は驚き説明を求めてきたけど
自分でも良く分からなかった

「なんで…言わなかった?
言いたくなかったのか?」

父親の状態
母の状態
そして私が知らなかった家族の話

子供のように泣きじゃくり
泣き疲れ眠りについて
目覚めると彼が私の話を聞いて
そう言った

「自分の中で現実味がないみたいな感じがしてね…
上手く整理ができてなくて…
なんか…認めたくないみたいな
気持ちがあったのかな…
モヤモヤしてて…ごめんね…」

彼の胸に顔を埋めた

「私…
誰かを恨みたくなんかない…でも…
普通が良かった…
生まれてこなかったほうが良かったのかなって…
でも…今があるのは…」

ただ思うままを話す

「お前の心はどっか子供の頃のままなんだな
きっと…
大丈夫大丈夫…」

彼が私の髪をそっと撫でる

きっと一人だったら
どこか遠くへ…と
自分からも家族からも逃げていたかもしれない

逃げたことで自分自身を責め
また暗闇の迷路を
うろうろと彷徨うことになっただろう

「美沙…今日一緒に居られるか?」
夕方になり
彼に聞かれうなずく

「美沙…お腹鳴ってるぞ!」
彼が私を抱き締め笑う

「ね…久しぶりにお腹空いたなぁって
思ってた」

「よしよし!気分転換に外出るか!」

彼に手を引かれ
夕食に出かけた

「ん…美味しい」
定食屋の煮魚を口に運ぶと
その優しい味に心が温まる

「な!美味いな!
俺いつの間にかに三食外食になっちまったよ
冷凍か惣菜しか出ないから
おいしくなくて家ではもう飯食えない…」

彼がご飯を幸せそうな顔でかき込む姿をみて
笑みがこぼれてしまう

「そっか…少しはちゃんとしたの
食べないとだね…涼の身体が心配になるよ…」
そう言った私に

「そのうち一食…いや
全部お願いするだろうな
美沙にあれ作って
あれが食べたいって言うようになるかな
豪邸でも建てるか?」
彼がいたずらに笑った










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