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35
第16章 35
その時期の私は情緒不安定だった
彼との大切な時間でさえもふと気が滅入ってしまう
気付かれたくないと
気付かれまいと
誤魔化そうとすればするほど
不自然になってしまう
「おいで…」
彼が優しく呼ぶその声に
躊躇してしまう時もあった
「金銭的な面や今後の御家族の意向は…」
相談員にそう聞かれ
「今まで…どうにかしなければと
精一杯してきたつもりなのですが…」
言葉に詰まって涙が溢れてしまう
「これからは御家族一人一人の楽しみや
お母様の生きがい探しなどのためにも
お父様がどうにかこちらを受けいれて
もらえるように
男性が多い施設や
趣味の合う方がいらっしゃるようなところを探してみますね…」
温かいその言葉に
そこまでしてもらうような父ではないんです…
と言ってしまいたくなる
私の心は悪魔にでもなってしまったのではないかと
項垂れる
「美沙…それはもう限界だよ…
私は冷たい人間だから親がそうだったら
さっさと切り捨てるわ…」
子供を連れ帰省していた真美が言う
「私だったらとっくにおかしくなってたわ…
幸い家のお父さんはそれなりにやらかしてたけど
突然だったしね…
保険も会社もあったし家のお母さんも
今はのんびりたのしそうだけどさ…
美沙のとこは違うからね…」
真美のお父さんは大きな会社の経営者だった
お母さんの名前を他の女性と呼び間違えたり
家にあまり寄り付かなかったりと
色々あったが
真美が高校生のときに突然亡くなった
真美の兄が跡を継ぎお母さんは
息子夫婦と孫に囲まれ
穏やかに暮らしている
「結局最後はさ…お金なんだよ…
家のお母さんは幸せそうだし今となっては
お父さんに感謝してるよ
美沙のお父さんはさ…人として
父親として最低だ…あまりにも酷すぎる」
真美の言葉に涙が止まらなかった
「真美…私もう疲れちゃって…」
「分かってるよ…美沙は言わないんだもん…
離婚のときもお父さんのこともさ…
大丈夫?ちゃんと彼に聞いてもらってる?」
心配そうに私の顔を覗きこむ真美の顔に
まるで母親のような優しさを感じる
「真美…良いお母さんになったね…」
私が微笑むと
「いつの間にか立派なおばちゃんだよ
美沙だけ時間が止まってるみたいだよ
老けないし相変わらずだしね…
ほっとけないよ」
そう言って真美が笑った