この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
35
第16章 35
「美沙…もし私が美沙の立場だったら
お父さんを殺してたかもしれないよ…」
「私も…
思うときがあったよ…」
「そうだよね…
中学の頃はさ
ただ厳しすぎるお父さんで
大変だなと思ってたけどさ…
正直言って家族をもってはいけない人だったんじゃないかなってさ…
歳を重ねてまるくなるとか
生死を彷徨って生き方を改めるとかさ…
なかったってことだよね…」
「うん…何ひとつ変わらなかった…」
真美の言葉にそのひとつひとつを
振り返る
「真美…
私さ…
お金の負担が増すとしてもお父さんを
最終的には施設にお願いしようと
思うんだ…」
私の言葉に驚くこともなく
真美が言う
「美沙とおばちゃんのためにも
そうするのが良いと私も思うよ…
金銭的なことはダメ元でも
お兄さんにも相談したほうがいいと思うよ…」
私はもうこれ以上父の身勝手に
振り回されたくなかった
怒鳴られたあとは父と顔を合わせたくなくて
父を避けるようになっていた
「あんまりにも怒鳴るから
もう勝手にしろ!って家を出て外にいるのよ…」
母から夕方電話が鳴る
そんな日は無理に父のもとへ帰さず
私の部屋に泊める
真美に話したことを
母にも話す
母は黙って頷いていた
「美沙…私は私の年金だけで
食べていかれるから…お父さんいなくなっても
側にいさせてねぇ…」
母の力ない言葉に
母も不安なのだろうと感じる
「大丈夫だよ…」
私は母にそう言った
母に対する蟠りのような想いは
いつの間にか消えていた
それは苦しみ耐え続け
それでも今…父や私を気遣う母の優しさに
触れることができたからだ
もう幼いあの日の母の言葉を
思い出すことはないだろう
何があっても母の
最期のときまで側にいてあげたいと
そう思えるようになっていた