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第16章 35

「検査の結果も異常は見られないですし…
肋間神経痛ではないかと…」

時々右胸の痛みと
脇腹に痛みを感じ様子を見ても治まらず
やがてそれは頻繁に痛むようになり
病院へ行った

「円形の脱毛もあるとのことなので…
一度診療内科を受診されては…」
そう言われた

頭部の目立たないところに
2箇所小さな円形の脱毛を見つけた

「あ…またか…」
それは三度目のことだった

大きくなることはなく
やがて治っていくそれを
あまり気にはかけていなかった

「美沙は内に秘めるタイプだからな…
身体が悲鳴を上げてるんだなきっと…
診療内科行けって言われたんだろ?
一緒に行くか?」

彼にそう言われ首を横に振る

「いい…私…涼がいてくれたら
それでいい…」
子供のように首を横に振る私を彼の腕が
そっと抱き締める

「涼…薬やカウンセリングで一時しのぎが
できたとしても
だめなんだよきっと…
私はそれじゃ納得できない…
お父さんのことが少しでも前に進めば
きっと大丈夫だから…
だから…ただ私のことつかまえてて…
お願い…」

私の素直な気持ちだった

彼がこうしていてくれさえすれば
乗り越えられると
そう思えた

何かに縋っていないと
たちまち闇にのみ込まれてしまいそうで
不安になる

縋るものさえ見つからなかった
あの頃より
今のほうが良かった

「美沙は誰か良い人いないの?
お母さんの知り合いの息子さんで…」
母が一人でいる私を心配して言う

「お母さん…
結婚していなければダメなわけでもないし
私はもう結婚を一度経験できたから…
とりあえずはもういいや…」

兄も同居生活がうまくいかないことと
奥さんの度重なる借金とで子供が二人いたが
離婚をしてしまっていた

孫にももう会うこともなく
私にもその見込みがないことが
なんだか申し訳なかった

「私がいるんだから…
それで我慢してね」
そう言うと
母は笑っていた



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