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第17章 私の道
それを自然とできるようになったのは
彼がそうしていたからだ
「おーしっ!!」
長い間空を見上げ気合を入れた彼は
いつもそのあと私の顔を見て
優しく笑う
私は彼の横で一緒に空を見上げるうちに
自分なりにそれが身についていた
「空でダメだったら海な!
俺達の悩みや壁なんてちっぽけだ」
彼はそう言って笑う
そう
今までのことよりも
今よりも
ずっとその先が良くなるなら
良くなるためなら
我慢だって努力だってできる
私の後ろ向きでネガティブな思考を
彼が少しずつ変えてくれた
「お父さんまたパジャマ濡らしちゃって…
台所でお水こぼしたって言ってたけど…」
母の困惑する様子に
「仕方ない仕方ない!
失禁も病気のせいだしお父さんがそれを言えないで
誤魔化すのはまだプライドが高いお父さんが
残ってる証だよ」
私は母の肩を笑って叩く
杖をつきサンダルでよろよろとなんとか歩く父に
履きやすいスニーカーを買って帰る
「おお!かっこいいな!履きやすいし軽い
いい靴買ってもらったよ!ありがとう」
父が顔をクシャクシャにして笑う
私もそれを見て笑顔になる
「美沙の名前が出てこないみたいだね…
お兄ちゃんの話も全くしないし
忘れちゃったのかしら…」
心配する母に
「今にみんな忘れちゃうんだよ
前はお父さんばっかりが都合よく
忘れることができてずるいなんて思ったりしたけど
今は仕方ないって素直にそう思えるよ」
そう伝える
「お母さん…適当にやっていこう
二人でやってどうしても無理だったら
訪問のヘルパーさんに手伝ってもらいながら
やれるとこまでは頑張ろ」
デイサービスを拒否し
ヘルパーの訪問を拒否し
父の世話ができるのは今のところ私か母しかいない
「お父さん!ご飯食べたらお母さんと散歩だよ!
リハビリリハビリ!
動けなくなったらトイレにも行けないよ!
私とお母さんにオムツしてもらうの嫌でしょう?」
笑いながら父にそう言うと
父は苦笑いをしながら
散歩に出かける
私は母と歩く二人の姿を
見つめながら
やっと夫婦らしくなってきたな…と
微笑んでしまう