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第17章 私の道
返済が終わり父の年金が
きちんと残るようになったら施設にと
母と話をしていたけど
私の考えは変化しはじめている
母が限界だと言ったら
仕方ないと思ってもいるけど
やはり最期のときまで…
とも考えてしまう
そんなふうに思えるときが来るとは
これっぽっちも考えられないくらい
私は父を憎み恨んでいた
それなら今は許しているのか
と問いかけられてもやはりうなずくことはできない
兄はあれから一時帰国で
二週間国内に滞在していたけど
一度数時間両親の家に寄っただけだった
「お墓のこともあるし…
お兄ちゃんはどう考えてるの?」
と問いかけた私に
「親父は自分の年金で施設にお願いして
おふくろと美沙は一緒に住めば…」
とその程度の話しかできなかった
母は兄の言葉に
「お父さんがあんなだから
もう嫌になっちゃったんだろうねぇ…
見捨てられちゃったね…」
と肩を落としていた
「お母さん…仕方ないよ…
どのみちいつ日本に戻ってこれるのかも
分からないし
もうお兄ちゃんに何かを期待することも
もうしないほうがいいと思うよ…」
私は母がいつか兄が…と
心のどこかで縋るように願っていたことを知っていた
でも兄はもうそれに応える気持ちが全くないことを
悟っていた
母にそれを伝えることは酷なことだと
触れずにいたけど
この先の現実のためにも
話さねばいけないと思った
母は強くなっていた
昔のことを掘り出しては悔やみ
涙を流す時期もあったけど
今は違う
母もきっと父のこの先のことを
私と同じように思い悩んでいるだろう
「美沙には本当に申し訳ないよ…
美沙がいてくれて本当に良かったよ…」
その言葉に幼い頃のままの私の心が
救われる
喫茶店でコーヒーを飲みながら
母と二人穏やかに話す時間もできた
母と娘が逆転してしまったかのように
感じるときもある
母との間に感じていた
見えない壁や
わだかまりはいつの間にか消えていた
逃げ出さなくて良かったと
捨ててしまわなくて良かったと
心の底からそう感じている
何かの本で見た
「愛情とは注ぎ続けた時間の長さではなく
その深さこそがその愛の大きさだ」
という言葉が心に残っている
母の言葉に
母の私を思いやる気持ちに
愛情を感じる
そしてその愛情を母への想いとして
大切にすることができるだろう