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第5章 救いの手
「美紗、お前飯食うんだな!」
龍が物珍しそうに私を見る
「こいつ、飯食わないでも生きてられるのかと思ってたよ
家に来てたときも腹が減ったなんて言わなかったし
無理にでも食えって言わないと食わないし
残しまくるし…」
龍が言うと謙さんが
「ずっとそうだった?」
と私に聞いたので
幼い頃からだったことを伝えると
謙さんは私に
「美紗ちゃん家族は?」
と聞いてきた
龍はほとんどを知っていたので
私より先にどんどん説明してしまう
私は御飯を飲み込みにくく感じて
箸が止まってしまう
「龍、デリカシーがないぞ!美紗ちゃん
飯が喉を通らなくなる!」
私はびくっとした
龍が
「そうなん?」
と私の顔をのぞき
私がうなずくと
ばつが悪そうに笑った
謙さんは暫く何か考え込んだような顔をすると
龍に言った
「龍、この子が好きか?付き合うのか?」
びっくりして謙さんと龍を交互に見ると龍が
「大切だよ
妹みたいに…だから手は出さない
一生…
付き合えば別れが来るし
俺は家族みたいに思ってるから…」
龍が真面目な顔で言った
「でもなんで急に…」
龍が言うと
謙さんが怖い顔をして言った
「多分美紗ちゃんは
お前より闇が深い
空腹や睡眠や当たり前の欲求を感じられないのは
心が壊れた状態だ
それが幼い頃からなら尚更根深い
お前この忙しい中では
四六時中面倒見られないだろ?」
私は思わず
「あの…
私は働かせていただければ大丈夫なので
四六時中なんて…」
そう言いかけると
謙さんが
「龍、俺がこの子もらっていいか?」
そう言って龍を見た
「え?もらうって、俺はそんなこと頼んだわけじゃないし美紗はものじゃねぇから…」
私は黙って箸を置いたままうつむいていた
龍の言っている言葉の意味も分かった
でも不思議と謙さんにそう言われて
嬉しかった
しばらく謙さんと龍がなにやら話をしていたけど
私は上の空になってしまい
大きな窓から見える中庭のきれいに手入れされた
木々を見つめると
実家の庭を思い出していた
龍は廊下に私を呼ぶと
「謙ちゃんどうしちゃったんだ?
あんな謙ちゃんはじめて見たよ
とりあえず今日は俺と一緒に帰るか?」
心配そうに言う龍に私は
「大丈夫だよ
私は大丈夫」
と言っていた