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第5章 救いの手
龍はそのまま心配そうに仕事に出掛けた
謙さんは
「アイツ、俺のこと信用してないな」
と笑った
それからデザートにゆずのシャーベットを食べ
店を出た
助手席に乗るよう言われ
言われた通りにした
外は暗くなって
繁華街はキラキラとネオンが輝いていた
「一度店に顔を出して来るから
少し待ってて」
道端に車を停めると
すぐ横のお店に向かった
入口にはスーツを着た男の人が二人立っていて
謙さんに気が付くと深々と挨拶をしていた
助手席に乗る私を見つけた男の人が
謙さんに何か言って慌てて私にも挨拶をした
私も頭を下げた
しばらくすると謙さんが戻り
車を走らせた
スーパーに行き
とりあえず必要なものを全て買いなさいと言われ
私は何となくボディソープやコーヒーをかごに入れた
謙さんは
あれもこれもとかごに入れる
レジでお財布を広げると
「これは入社祝いだから払わなくて良いんだよ」
と言われた
大きな建物の地下駐車場に車を停めると
荷物を持った謙さんの後を追いかける
オートロックを開け
エントランスを通り
エレベーターに乗った
「これ…寮じゃないですよね?」
私がきょろきょろしながら言うと
「アパートもあるんだけどね
こっちのほうが安全だからと思ってさ
俺がたまに趣味で使うだけの部屋だから
何もないんだ」
ドアを開けると
広々した室内が見える
「お邪魔します」
「今日からただいまだよ
な、美紗ちゃんはさ
さっきはじめて会ったときもそうだったんだ
龍が個室に入るとき脱ぎっぱなしだったスリッパを
当たり前に揃えたんだよ
いつから?」
「あぁ…父が厳しかったから」
「それが当たり前にできるんだもんなって
その歳とその見た目でさ」
と言って謙さんが笑った
父は厳しかった
靴を揃えていなければ庭に投げ捨てられ
片付けていないものは学校のものでも
捨てられてしまっていた
だから多分身についていたんだと思う
広い部屋には大きなテレビと
スピーカー
90センチくらいの大きな水槽には
熱帯魚が泳いでいた
ソファーと
大きな観葉植物が一つ
「今日から美紗ちゃんの家だよ
俺は今日は帰るけど一人で大丈夫?」
私が黙っていると
「不安に決まってるよな
龍にあとで来るように言っとくから」
そう言って謙さんは部屋を出て行った