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第7章 生きるということ

川辺を海に向かって歩いた

浜辺では夏の夜を楽しむ声がして
遠くで花火が光っていた

「美紗もまだ遊びたい年頃だな」

謙さんが言ったので

「私はもういいな…
10代で遊びつくしたから」

と素直に答えた




ねぇ謙さん…

私は多分一度も好きと言えなかった

謙さんはいつもいつも言葉に出さないときも

私をまっすぐ見つめ

私の欲求が芽生えるずっと前に
なんでも叶えてくれてたね

だから何が欲しいとか

何がしてほしいとか

一度も思ったことがなかった

それが謙さんの愛情だって

分かってたけど

家族のいるあなたを独り占めすることが

怖かった

謙さんが離婚の話をしていたこと

別れてもいいけど子供には二度と会わせないと
言われたこと

随分前にお金のことと男性のことで
奥さんに裏切られ夫婦関係は破綻していたこと

龍がみんな教えてくれたんだ

私はそんな謙さんが毎日夜8時にかかってくる
子供からのおやすみコールに
いつもいつも
優しく応えている姿を見て

「お父さんもこんなに優しかったら
少しは違ったかな…」

「私が今していることは
あの頃のあの女の人と同じなんだな」

そう思うとどうしたら良いか分からないほど
苦しくなってた

謙さんが優しすぎて

謙さんが好きだったから

ずっと…二年間言えなかった

龍は

「お前は自分を責めすぎなんだ
美紗のオヤジと謙ちゃんとは違うし
美紗だってその女とは違うんだ」

そう言ってくれてたけど

誰かがいなければ生きていけないような
弱い自分が嫌で
一人でしっかりと歩けるようになりたくて
必死だった



その夜
浜辺で謙さんが言った


「会長がね…美紗と二人で話がしたいって
マッサージ店の社長が病気で辞めるから
その店を美紗に任せたいんだって」

「え?私が?無理だよ…」

驚く私に

「あはは、美紗は自分が思ってる以上に
賢いし根性があるんだ
それを俺じゃないまわりが認めて
今回の話を美紗にってさ…
俺はやってみたらいいと思うよ」

謙さんがそう言った

私は謙さんから自立するチャンスかもしれないと
思った…

宿で朝風呂と朝食を二人で済ませ
帰る車の中で
私はイエスの返事をした


夕方会長に会うよう謙さんが私に言った




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