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第9章 決心

「汚くて狭いから恥ずかしいけど入って…」

横山さんの部屋にはじめて入る
無駄なものが何もなく
シンプルできれいな部屋だった

胃カメラの時に一緒に注射された
軽い安定剤のようなものからまだ覚めていないのか
頭がぼーっとしてふらふらする

「麻酔とか効きすぎちゃうみたいだよ
看護師さんが美紗ちゃんが
あんまりにも目を覚まさないから
頬を強く叩いて起こしてたんだ
痛くない?」

横山さんが私の頬に優しく触れた

「俺もう少ししたら行かないと
美紗ちゃん今日は休んで」

そう言われて思わず

「いや…一緒にいてくれなきゃ…」
子供のように駄々をこねてしまう

「分かった分かった…
俺も今日は休みにするから」
横山さんは私の頭をそっと撫でると
そう言ってくれた

私は眠気にまた襲われて
横山さんのベットで眠った

目が覚めると隣にいてくれる

それを確かめるようにうとうとしながらも
何度か目を覚まして確認してしまう

そのたび

「大丈夫だよ
ここにいるから…」
と抱き締めてくれる

あたたかくて大きくて
心が穏やかになれた

「美紗ちゃん…俺さ…
美紗ちゃんと結婚したい
今まで美紗ちゃんのこと見てきてさ
心の底から一緒にいたいって思えたんだ…
美紗ちゃんだけは他の女と違うって
色々聞くうちにさ…そう思ってたんだ
純粋で脆くてがんばり屋で泣き虫でさ…
ほっとけない…
謙さんのとこにまた戻っちまうかもって
不安でたまらないんだ…
情けないよな…」

私は黙って横山さんの話を聞いていた
そしてしばらく沈黙が続いたあと
私から手を繋いで言った

「こんな私でいいの?」

横山さんは手を強く握り返して言った

「美紗ちゃんだからいいんだよ
美紗ちゃんに俺を幸せにしてほしい…」

私は幸せにしてあげたいと心から思った

良く耳にする
「君を幸せにするから」
のお決まりの言葉よりも
私には現実的で心に響いた

「うん…幸せにしてあげるから…」
私は少しはにかみながら
横山さんにキスをした

12月24日に籍を入れたいと彼が言ったので
それまでに謙さんに自分から全ての話をすることや
お店の引き継ぎを終わらせることを約束した

もう胸は苦しくなかった

翌日謙さんに会うまでは…





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