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第9章 決心
翌朝着替えに部屋に戻ると
テーブルにメモがあった
見たくないと見てはいけないと
思いながら見てしまう
「美紗会いたいよ
話がしたい」
見慣れた謙さんの綺麗な字
また胸が苦しくなった
このまま逃げていてもダメだ…
私は横山さんに謙さんと二人で会って
話をすることを伝え
いつもより早めに仕事に向かった
駐車場に車を停めると謙さんの車を見つけた
私は思わず気付かないふりをして
足早に通りすぎてしまった
いつものように掃除や
開店準備をしていると
階段のセンサーが反応して音を鳴らす
小さなモニターには
階段をゆっくり上がってくる謙さんの姿が
映っていた
胸がドキドキして
モヤモヤして落ち着かない
ドアをゆっくり開けて謙さんが入ってくる
私は掃除を続けた
「美紗…夕べどこに泊まってた?」
私は背中をむけたまま言った
「横山さんの家だよ…
私一人になりたくなかったから…」
しばらく黙ったあとゆっくりと
近付いてきた謙さんが私のすぐ後ろから言った
「ごめんな…俺が居てやれなかったからだな…
美紗…俺さ…離婚しようと思うんだ
子供に会えなくなったとしても
美紗を失うくらいならそれでもいいんだ…
自分の気持ちに嘘はもうつきたくないんだ…
ずっと一緒に居たい…」
謙さんの声が震えて泣いているのが分かった
「私もずっと一緒にいたい」
その一言が言えたら…
そう思ったけど
「謙さん…あんなに子供を愛しているのに
会えなくなって平気なの?
平気なわけない…きっと子供だって謙さんが…
私は誰かを不幸にしてまで一緒にはいられないよ
ごめんなさい…
私…私ね…
夕べ横山さんに結婚しようって言われたの…
エッチもしたんだよ
だからもう謙さんのものじゃないから…」
私は嘘をついた
抱かれていないのに
嘘をついた
涙と震えが止まらなかった
謙さんの両手が後ろから私を抱き締める
「美紗…また痩せちゃったな…
しばらく抱いてないから気付かなかった…
ごめんな…ごめん…もっと早く…」
「だめっ…やめて!」
私は振り向いて謙さんの顔を見た
もう耐えられなかった
謙さんが泣いていることも
どうしようもない現実も
謙さんはそうまでしても
一緒にいてくれるって言ってくれたのに
私は一生十字架を背負うような気がして
怖くてたまらなかった