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第10章 結婚生活

彼は仕事が終わると真っ直ぐ帰宅し
日曜の休みは必ず一緒に過ごす

「友達とか会社の付き合いもあるでしょ?」

あまりにも気になって聞くと

「仕事以外は美紗だけいれば
俺はそれだけでいいんだよ」

彼はそう答えた

一緒に朝食をとって玄関でキスをして
見送る

洗濯や家事を済ませ
買い物に出掛けたり
海へ散歩に出かける

最初の数ヶ月は
それで退屈とも思わなかったけど
一人の時間は少しずつ孤独感を呼び起こす

何もしないまま日々を過ごすことに
自分がダメになってしまいそうで
以前から気になっていた介護の資格を
取得するために講習や研修を受けに通った

数十人の受講者は
男性も思ったより多く
年齢もさまざまな集まりだった

休憩時間には学生時代のように
複数のグループができあがる

私が一番苦手な時間だった

喫煙所に向かうと数人の男女が雑談をしている
毎日のように顔を合わせていくうちに
楽しく世間話もできるようになっていた

主婦
サラリーマン
OL
学生
色々な人の中にいる私は一人浮いてしまっているような感覚を覚えていた

「結婚する前はなにしてたの?」

「旦那さんはいくつ?」

「聞いてよ~家の旦那なんて…」

「お姑さんが…」

当たり前の世間話が
私には当たり前に感じることができなくて

笑顔を絶やさぬように
相づち程度で必死にやり過ごすことが精一杯だった

勤めていた頃はそれが当たり前として
いられたのに
ここ数年は閉鎖的でワガママな生活を
送ってしまっていたことを実感する

私は「普通」が欲しかった

普通に結婚して
働いて
普通の幸せが欲しかった

ただそれだけで良かったはずなのに
いつの間にかその
「普通」からかけ離れた世界にいてしまった

「美紗がこの歳でこんな思いしちゃったら
普通の生活できなくなっちゃうな…」

謙さんの言葉を思い出す

月給は自分で決めて良いと言われて
勤めていた頃と同じくらいで良いと言った

それと人手が足りないときに
マッサージをしたぶんだけ他の子と同じ
歩合の手取りの金額をプラスしてもらっていて
合わせると月給は良いときは60万を越えていた

家賃もなく
生活費のほとんどは謙さんが出してくれていたため
お金を遣う機会があまりなかった






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