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第11章 気持ちの変化
「なんかさ…俺最初に会ったときから
あぁ…また会いたくなるなって思ってたんだよ…
だから自分でも引くくらい店に電話しちゃってさ
信じてもらえないかもしれないけど
こんなふうになったこと生まれてはじめてなんだよ」
そう言って彼は恥ずかしそうに笑った
私も彼のことで頭がいっぱいだった
彼にまた会いたいと思ってしまっていた
でもお店の中にいる私が
それを彼に伝えることは
安っぽい営業トークだと
思われてしまうのではないかと
言えずにいた
それから彼は私がアルバイトに出る日は
必ずお店に来てくれていた
「美紗ちゃん…
飯島くんにボトルもう入れなくていいからって
伝えてね」
ママが何度もそう言ってくれていた
私も毎回ウーロン茶と食事だけで
あまりにも高額になってしまうことが
なんだか申し訳なくて彼に伝えていたけど
「飲まないのに通いつめて
美紗さん独占しちゃってるんだからいいんだよ
俺こんなだけど一応社長だしな」
そう言っていつも笑っていた
私ははじめて会ったときから
彼の左手の薬指に指輪があることに気付いていた
でも彼がそのことを口にすることは
なかったので
私も何も聞かずにいた
「美紗さんたちシラフ同士で
毎回毎回何時間も何楽しそうに
話してるの?」
ほかの女の子達に聞かれることが多く
「んー…仕事のこととか世間話だよ
いつも」
とありのままを答えていた
彼とは彼の仕事の話や
些細な日常の出来事を話していた
「立場上本音を言えないことが多くてね…
仕事と家と…ね…
本当の俺はどこにいっちゃったんだろうなぁってさ…
ここで美紗さんに聞いてもらう時間が
一番癒されるんだ…」
いつも笑顔の彼の顔から
ふと疲れが見えたとき
あぁ…
奥さんとあまり上手くいってないんだな…と
感じたけど
私はそれ以上聞かなかった
私は父が退院して落ち着いたら
ここにはいられなくなる
少しでも長く
彼といたいと
ただただそう思っていた
そしてそう思ってしまっている自分に
戸惑いながら
夫への罪悪感を感じていた
自宅に戻ったときは
いつも不満も言わず
一人で私を待つ夫に申し訳ない気持ちと
だからこそ大切にしなくてはと
そう思っていた