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第11章 気持ちの変化
「ちょっとやめて!
早くお家に帰ろうよ」
疲労と睡魔で思わず強く言って体を離してしまった
「うるせ~よ!
お前俺の女房なんだから言うこと聞けよ!」
夫が見たことのない形相で怒鳴る
私はその姿に恐怖を覚え
優しく諭すように宥めながら家へと車を走らせた
駐車場に着くと
助手席で眠ってしまっている夫に声をかける
「美紗ー美紗ー」
私に抱きつきキスをする
私はついさっきのエレベーターでの夫の姿が
焼き付いてしまって離れない
抵抗したらまた怒鳴られるのではと
怯えていた
真っ暗な深夜の駐車場の車の中で
夫が私の胸に激しく触れる
「裕ちゃんお願い!
お願いやめて!私怖いよ…怖いんだよ……」
ガタガタと身体中が震え泣き叫ぶ私に
夫が驚いて固まっていた
「ごめん!
本当にごめん!ごめんな…」
夫は何度も謝っていた
私は深呼吸を何度もして
息苦しさを回避させると
「とにかく家に戻ろ…」
そう言って家に帰った
すぐに夫は眠りについていた
私は寝付くことができず
朝方再び実家へと戻った
目が覚めた夫から何度も電話が鳴る
実家のソファで私は着信画面を見つめたままだった
すぐにメールが入る
「夕べはごめん…
あんまり覚えてないけど
美紗がすごく泣いてたから
とにかく謝りたい
ごめん…電話に出て」
私は返信できずにいた
考えないようにしても
夕べのことを思い出してしまう
車の中で…車の中で…
怒鳴られた
殴られるかと思った…
ぐるぐると
過去の出来事と夕べの出来事が
ぐちゃぐちゃと混ざり合い
真っ黒な渦を巻いて頭の中と
喉の奥のほうから消えない
父の病院に行き
待ち合いのソファでうとうととしてしまう
今日はお店の日なのに…
どうしよう…
彼に会いたい…
そう思うといつの間にか
また彼のことで頭がいっぱいになっていた
午後に実家で寝付けない中
横になり目を閉じ
少しでも体を休めようと思っていた
父はこの頃は曜日や日にちの感覚が
なくなってしまってきていて
ラジオもテレビもつけることなくぼーっとしてばかりになってしまっている
入院を少しでも早めることができるようにと
薬や点滴で調整しているが
肺に溜まっている水がなかなか抜けきれないと
説明されたばかりだ
あぁ…
どこか遠くに行ってしまいたいな
ぼんやりとそんなことを思っていた