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第12章 蜘蛛の糸
病院の洗濯室の乾燥機で
クルクルと絡まり合いながら
気がつくと夕べのことを思い出していた
彼の細く関節の目立つゴツゴツとした指が
私の指をしっかりと挟んでいた
私は自分の手と手を合わせ
同じようにして目を閉じる
なんだろう…安心したな…
洗濯物をたたみ
父の病室へ戻り
「今日は少し早く帰るからね」
と伝え
実家へ戻った
汗をかいたのでシャワーを浴びて
メイクを直して待ち合わせの駐車場へ向かう
彼から聞いていた彼の車が
すぐ目にとまる
ハンドルを握りしめ
車を停めた
彼が笑顔で運転席から手招きしている
私は明るい中彼に見られてしまうのが
恥ずかしくてうつむきがちになってしまう
「変わんないのな!夜の女を昼間見ると
がっかりするってよく聞くけど
全然そのまんまじゃん」
彼はそう言って笑っていた
「昼飯食べた?」
と聞かれ私が首を横に振ると
「とりあえずご飯!」
そう言って車を走らせた
私は助手席で緊張していた
話しかけられても
彼の顔すらまともに見れない
「まさか…緊張してるの?
その顔で?
うそだよごめん
男慣れしてそうな顔して実はウブなんだもんな!」
見抜かれてる…
彼はこの数ヶ月お店での会話の中で
少ない私の本音の中から
「本当はこうだ!って思ってたりしても
美紗さんの性格じゃ言えないよな」
「気が強そうにしてるけど
本当は違うんだろうな」
「百戦錬磨してきたみたいな顔して
処女みたいなこと考えるんだな」
と私のことをよく分かってしまっていた
私から話さなくても
何かを聞かれて素直に答えるだけで
私の考えや気持ちを
手に取るように分かってくれていた
「なんでだと思う?」
と聞かれ
「観察力?理解力?わかんない」
と答えると
「俺さ気になるものとか
気になる人のことは
とことん真正面向いて知ろうとしちゃうんだ
そのくせ自分の腹は見せられない
おかしいよな」
そう言っていた
少し私と似ていると思った
でも今の私には彼を
彼のことを知りたいと思っていても
聞くことすらできない
お寿司屋さんのカウンターで
並んで食事をする
「向かい合ったら一口も食えないだろ?」
と気をつかってくれた
世間話をしながら楽しく食事がすすむ
おとといからろくに食べていなかったことに
気がついた