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第12章 蜘蛛の糸

「お前は本当に優しいんだよな…
いつも本当に幸せそうに優しい顔で俺に笑うんだよ
その顔がたまらない
そう思ってるうちに抱きたいとか
付き合いたいとか
そんなんじゃなくていいから一緒にいたいって
思っててさ…」

私は夢の中にいるような
そんな気持ちで彼の話を黙って聞いていた

「店は続けたい?」
そう聞かれてうなずいた私に

「金?」
と聞く

「それもあるし
ママにすごく良くしてもらってるから
実家に通ってるうちは続けたいなって」
私が正直に言うと

「そうか…
じゃぁお前が店にいるうちは店に会いにいく
他の奴のとこついてほしくないし…
あとさ…
昼間に都合の良いときだけでいいから
会わないか?」

そう言われて私はうなずいていた

それから半年
その前を合わせると
一年の間彼はお店に欠かすことなく会いにきてくれた
週に二回から三回
昼間は週に三日から四日
彼と過ごしていた

私は夫に帰らないと伝えた
一週間後に自宅に帰った

「もう二度とお酒は飲まないから
美紗の泣くようなことはしないから
許してほしい」
と泣きながら謝る夫の姿に

許したいけど
許せない

でも許したい…


いっそ嫌いになれたら
今までみたいに
すぐに気持ちが冷めきってしまえたら…

そう思ったけど

夫はいつも優しかった
いつも私だけだった
ずっとずっと大切にしてくれている
そんな夫のことを私も大切に思っている…

だから今まで通りの私に戻り
夫と過ごしていた

父が退院してからも
リハビリや車がなくなって不自由な両親のためにと
口実をつけては
今までと同じく週に三日から四日は
実家へ通っていた

内緒のアルバイトのことと
彼のこと…

罪悪感に時々飲み込まれそうになる

でも私には自分自身の気持ちを止めることが
できなくなってしまっていた




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