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第12章 蜘蛛の糸
彼がもしもっと不誠実な人で
すぐに身体の関係を求めてきていたとしたら
もっと簡単に始まって
簡単に終わりを迎えていただろう
私と彼の妙な生真面目さが
キス以外
プラトニックを貫いていた
夫に抱かれると
彼はどうして処理しているんだろうと
気になったりしていた
12月に入った頃
ママから身体の具合が良くないから
年内でお店をたたもうと思っていると
言われた
もしできるなら
私にママとしてお店を任せていきたいと
そう言ってもらったけど
私は断った
日中彼と過ごしたときに
ママから聞いた話をする
「他の店探すの?」
そう聞かれ
迷っていることを告げると
彼は
「なるようになるから大丈夫だよ」
と意味深な顔をして笑っていた
そして
「誕生日の日さ…
できれば一緒にいてほしいんだけど…」
と彼が言った
私は笑顔でうなずく
彼の誕生日は私達の結婚記念日と同じ日だった
私はそれを言えずにいた
言えば彼は気をつかって
会わなくていいと間違いなく言う
でも誕生日を小さな頃からまともに
祝ってもらったことがないと
いつか言っていたことを思い出して
どうしてもお祝いしてあげたいと
そう思っていた
アルバイトのことは
年が明けてから考えようと思っていた
私は彼の誕生日のことばかり
考えていた
何をプレゼントしたらいいんだろう…
残るものはあげないほうがいいな…
そんなことばかり考えて過ごすうちに
すぐにその日がやってきた
私は手作りのケーキをデコレーションして
彼の煙草を大量に買い
ホテルの部屋を予約して
部屋に直接来てほしいと伝えた
「誕生日パーティーだ!」
部屋に入ると彼がきょろきょろと周りを見渡し
落ち着かない
「殿!座って!」
私は運ばれてきたオードブルと
ケーキの前に彼を座らせ
歌を歌いながらろうそくに火をつけた
「これ!はじめてやるんだけど!」
彼がろうそくの火を吹き消す
子供のようにはしゃぐ彼の姿を見ながら
私の考えていたことが大きな決心に変わる
彼に私をあげよう…
彼に抱かれたい…
そう心から思っていた