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第12章 蜘蛛の糸

少し前の私は季節の移り変わりを
気にすることもなく
ただただがむしゃらになっていた

父や母のことや
お金のこと
夫とのこと…
自分自身のトラウマ…

真っ暗な暗闇を
出口のないトンネルの中を
ただひたすら止まってはいけないと
必死に歩いていた

行き着く先に何もなかったとしても
行き着くことができなかったとしても
立ち止まって休むことすら
自分自身が許さなかった

そんな私に

「俺といるときは羽を休めてたらいいよ」
と彼はいつも言ってくれていた

ラブホテルにも何度も入ったけど
彼は何もしなかった
テレビもつけず
薄暗い部屋でたくさんの話をして
手を繋いで昼寝をした

どんなに話をしても
どれだけ一緒にいても

「足りないな…」
と言ってくれていた

だけどいつも「私もだよ」
が言えなかった

好きで好きで
たまらなく好きになってしまっていたけど
そんな気持ちは初めてで
戸惑っていた
それを隠してしまっていた

彼も言葉には出さなかった

でもいつも私を見つめる優しい眼差しが
私の手を握る手が
「好きだよ」
「大事だよ」
と教えてくれていた

彼と過ごすようになってから
生まれてはじめて
心の底から自分自身を変えたいと思い願った

彼は
いつもいつでも
私の暗闇にキラキラ光る一筋の糸を
下ろしてくれていた

でも私はそれに触れるのが怖くて
手を伸ばせなかった

途中で切れてしまったら…
触れて消えてなくなってしまったら…

臆病な私は見て見ないふりをしていた

夫を裏切ることになってしまうことも
その糸に一度手を伸ばしてしまったら
きっと自分から手を離すことができなくなることも
分かっていた

ただ
彼と繋がりたかった

食事が終わり

「ちょっとお着替えしたいから
シャワー浴びてきてくれる?」

私は彼が不思議そうにバスルームに向かうのを
確認すると着替えをする

彼が好みだと言っていた
赤い下着を身につけ
黒い網タイツにガーターベルトをつける
上にサンタクロースのミニのワンピースを着て
頭に帽子をのせる

恥ずかしくて
ベットに潜り彼を待つ

「ん?眠いの?」
彼が上掛けを捲る

「涼太くん…
美紗サンタさんがね…プレゼント持って来たよ」

ゆっくり起き上がって
ワンピースの肩ひもを下ろす…




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