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女は抱かれて刀になる
第5章 刀匠の武器
「では、条件を変えましょうか。殺すのは、あなたの心にいつまでも巣くう近藤虎徹でも構いません」
菊は立ち上がると、和泉の腕を拘束していた帯を解く。そして、一枚のメモ用紙を和泉に渡した。
「これ……」
「あなたの服に入っていたものです。それを破り捨てる事が出来たら、心の中にいる近藤虎徹を捨てたのだと認めましょう。さあ、どうしますか? 銃を取るか、その小汚いメモを破るか、自分で決めなさい」
菊が渡したのは、最後の日に虎徹が書いた、朝食について伝言を残したメモだった。書いた本人ももう忘れているであろう、たいして綺麗でもない文字の羅列。銃で撃つ事に比べたら、それを破り捨てるのは容易い。
「……ボク、は」
だがメモを見れば、蘇る恋慕。人生のどの瞬間よりも濃く、安息を得た週末。時に性欲のタガが外れても、最後はいつも和泉を労っていた腕の温もり。思い出すだけでも底無しに幸福を感じる存在が、そこにはあった。
「う……ぁ、うわあぁぁん!」
和泉はメモを握り締めたまま崩れ落ち、しゃくりあげて泣き叫ぶ。ごみ同然のメモでも、それを破り捨てるなど、和泉にはどうしても出来なかった。