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女は抱かれて刀になる
第5章 刀匠の武器
 
 手や口を出してこないとはいえ、周りにはヤクザ。そしてなにより菊は、狂気を隠すだけの狡猾さを備えている。油断すれば虎徹が『武器』を振るう前に、和泉を救う機を失ってしまう。今の虎徹は、小さな思考一つでさえ、間違いは許されなかった。

「分かった。じゃあ、和泉を呼んできてくれ」

「いえ、僕達が和泉の元へ向かいましょう。あの子にとってこの本宅は少し刺激が強いですし、今は離れに置いているんです。汚い場面を見れば、自然と目も汚れてしまいます。あの子の瞳に映るものは、綺麗なものだけで充分でしょう?」

「……案内してくれ」

 虎徹は菊の問いには答えず、案内を促す。言いたい事は山ほどあるが、今は喚く場面ではない。腹の奥で煮えたぎる怒りを抑え、刀を握る左手に力を込めた。

 菊が歩き出せば、数人の組員も伴って歩き出す。数は減ったが、見張りは虎徹を囲んだまま。下手な真似は出来そうにもなかった。

 同じ日本家屋だが、虎徹の家と違って、一文字家は荘厳な館だった。廊下を歩いても軋んだ音はせず、縁側から覗く庭の植木は整えられている。離れに向かうだけだが、虎徹は菊に格差を見せつけられているような気がした。
 
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