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女は抱かれて刀になる
第6章 明日も、あさっても
立派な床の間に飾られたのは、虎徹の書いた、さして綺麗でもない文字のサイン。趣のある部屋に似合わない、愚直な線をちらちら眺めながら、虎徹は菊の祖父である老人の自慢話を聞いていた。
「虎徹先生も、この刀は初めて見るだろう。これは関が若い頃に――」
一週間前に和泉が借りた着物を返すついでに、約束通りサインを置きに来た虎徹。だが話の分かる客の来訪に老人は舞い上がり、保管している刀を引っ張り出しては鼻高々にしていた。
老人が出す刀に興味を引かれるのは事実だが、帰りが遅くなれば、家で待つ和泉が心配してしまう。どうにか切り上げられないかと悩んでいると、部屋の外から声が掛かった。
「おじい様、入りますよ」
虎徹の前に現れたのは、不機嫌を顔に出した菊だった。
「なんだ菊、今は来客中だぞ」
「おじい様の用は済んだでしょう? 僕も彼に用事があります、身柄をこちらに引き渡してください」
「ああ? せっかく虎徹先生が来てくれたってのに、もてなしもせずにお前に引き渡せるかよ。お前の無粋な接待じゃ、また虎徹先生を傷つけちまうだろ」