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女は抱かれて刀になる
第6章 明日も、あさっても
「……仮にそうでも、僕が認めるとでも? そもそもそれを知って、誰が得をするんですか。あなたの好奇心を満たすだけでは?」
「それは、そうかもしれないが」
「誤解されたくないので、一つだけはっきり言っておきます。僕はあの人を、心から尊敬していましたよ」
「その尊敬ってのがよく分かんねえよ。何か和泉の父親と特別な縁でもあったのか?」
虎徹の問いに、菊はあっさり首を振る。そして、裏のない微笑みを浮かべて語った。
「簡単な話です。彼は僕が知る中で、一番美しいモノを作り上げた人間ですから」
「……分かんねえ奴だな、お前」
瞳の奥に虎徹の知らない人物を思い浮かべ、懐かしむ表情に偽りは見受けられない。虎徹には、この菊が和泉を傷付けた人間と同じとはとても思えなかった。
「あなたのように単純な人間に、僕の心情が分かったら困ります。さて、むさ苦しい顔をいつまでも見ていたくないので、早く帰ってください」
菊は虎徹の背を押し外へ追い出すと、ピシャリと扉を閉める。結局真実は何も分からなかったが、一つだけ虎徹は確信した。
(和泉の父親は、本当にいい人だったんだな)