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女は抱かれて刀になる
第3章 夕日の沈む日曜日
虎徹の問いに、和泉は一瞬言葉を詰まらせる。が、取り繕うように、虎徹へ愛想笑いを向けた。
「っ、楽しいに決まってるじゃん。そうじゃなきゃ、こんな事言わないよ」
「俺はそうは思わないな。なあ、逃げるのは、悪い事じゃねえよ。間違った事でも、やらなきゃどうしようもない時だってある。お前が楽になれるなら、俺はどんな事だってしてやるさ」
「でも、結婚はしてくれないんだ」
「それは、単なる逃げじゃねえ。自分が今まで築いてきた人生を丸ごと捨てて放り出す手段だろ。でもな、自分の過去を捨てる事なんて出来ないぞ。捨てたつもりになっても、他人が何も言わなくても、頭の奥からそいつが呼び掛けてきて、絶対にいつか捕らえられちまう」
和泉の愛想笑いが消え、表情はいっそう深く沈む。それでも虎徹は、ここで甘えには走らなかった。
「結局な、一番楽なのは、真面目に問題へ向き合う事なんだよ。それで壊れちゃ本末転倒だから、時には逃げてもいい。そうやってバランス取りながら、時間が掛かっても、どんな形でも構わないから『終止符』を打つ。そうしなきゃ、いつまでも心に棘が残っちまう」