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女は抱かれて刀になる
第3章 夕日の沈む日曜日
 
 身を包むベージュのスーツは、虎徹でも名を知る有名なブランド物。清潔感のある黒髪はしっかり整い、紳士の装いである。年齢は虎徹より少し若いほどに見えるが、作務衣に無精ひげといった怪しい出で立ちの虎徹と比べれば、よほど大人のようだった。

「――菊、さん」

 一歩男が近付けば、和泉は虎徹の背に隠れ、作務衣の裾を握る。吉行の時も和泉は怯え隠れたが、今回の動揺は、その比ではない。

(こいつが、和泉の『問題』か)

 一見すれば、男に不審な様子はない。しかし、絵に描いたような紳士の笑みは、虎徹に強い違和感を抱かせた。

「どうも。この週末、妹さんを連れ回してすいませんでした。俺は近藤虎徹、刀匠です」

「これは丁寧にどうも。しかし、僕は和泉の兄ではありません。僕は一文字 菊、こういう者です」

 菊と名乗る男は名刺を差し出し、深くお辞儀する。そこには虎徹の知らない会社の情報と、代表取締役社長などという大仰な肩書きが記されていた。

「和泉のご両親とは少々縁がありまして。彼女が幼い頃から、家族同然に付き合っているんですよ。まあ、兄と言っても間違いではないんですけどね」
 
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