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女は抱かれて刀になる
第3章 夕日の沈む日曜日
和泉が大丈夫だと判断したのなら、虎徹も無理には引き止められない。紳士なようで、何か心に引っかかる菊。和泉に関心がないという母親。不安は残るが、ひとまず虎徹は頷いた。
「無理とか、遠慮はするなよ?」
「うん。それじゃ……また」
和泉は名残惜しみながら、マンションの中へ戻っていく。虎徹はその背中が見えなくなるまで見送ると、車を自宅まで走らせた。
帰宅した後、どのくらい虎徹は呆けていたのか、気が付けば壁掛け時計の針は十二時を越えていた。
(あー……喪失感、やばいな)
安さだけに飛びついた、すきま風だらけの無駄に広い家。そこに誰もいないのは日常だったはずなのに、音のない今は無常であった。
(風呂入らないと……ああもう、動きたくねえ)
ごろりと床に寝転び、虎徹は重い体を投げ出す。その時懐からはらりと落ちた紙に、虎徹は鈍い頭を覚醒させた。
(そういえば、一文字 菊だったか。あのいけすかない男の名字、なんか聞き覚えがあるな)
落ちたのは、菊が渡した名刺。虎徹はそれを拾い眺めながら、記憶を辿る。