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女は抱かれて刀になる
第3章 夕日の沈む日曜日
(駄目だ、思い出せない。こりゃ年かな。そういや吉行も和泉をどこで見たか思い出せないとか言ってたし、この歳になると誰もが物忘れが激しくなるもんか――)
ふと吉行が頭に浮かんで、虎徹は細い糸を掴む。マル暴である警察官の吉行。詳しく思い出せないとはいえ、どこかで和泉を見たという証言。そして、一文字と名乗る男に感じた、紳士の影にある違和感。
「――まさか」
虎徹は慌てて携帯を手に取ると、吉行に電話を掛ける。仕事が仕事であるが故にあまり連絡が付かない吉行だが、幸いにも今日はすぐに繋がった。
『あら、てっちゃんから電話なんて珍しいじゃない。お誘いなら嬉しいけど、アタシこれから出番で――』
「冗談に付き合ってる暇はない! お前、一文字 菊って知ってるか!?」
『なんでてっちゃんがその名前出すのよ。それって……ああっ!』
「うるせえな、あんまり大きい声出すな」
『思い出したのよ、あの子! この前てっちゃんが連れてた女の子! あの子は――』
吉行は、語る。虎徹が知らない、和泉の正体を。全てを知った虎徹に残るのは、無理にでも事情を聞き出さなかった自分への後悔だった。